夢回路

□第八話
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 夜空を見上げながら沢山話をした。

 子供の頃の話や冒険の話、辛い事や悲しい事、楽しい事に嬉しい事、とにかく沢山話をした。

 だけど、どの話も確かに自分の話なのだけれど、本当の自分の話なんてありはしなかった。


 現代の日本で冒険なんて『(笑)かっこわらい』と言われるだろう。

 胸が躍るような冒険も、命をかけた戦いも、平和と言われる日本ではまず体験できないことばかりだ。


 本当の自分の話が彼に興味を抱かせる何かがあるとは思えない。


 考えてもマイナスになるだけとわかっている筈なのについ考えてしまう。

 本当の自分を知られた時、それでも彼等は自分達に興味を持ってくれるのだろうかと。





   第八話   仲間になりたい




 結局、切っ掛けはあったのに昨晩は飲んでそのまま別れてしまった。

 優子も浜辺でエースとかなり話をしたのだが、迎えに来たサッチ達の登場で解散となり結局何の進展もないままホテルに戻ってきた。




 今日を逃したら後がない。



 身支度を整えて取り合えずホテルをチェックアウトする。

 隠すように停めていた船に荷物を乗せようとしていた時だった。

 ガサッと音がして振り返れば両手に持っていた荷物を落としてこちらを驚愕に見詰めているサッチがいた。

 何でそんな顔をしているか二人はサッパリわからずキョトンとサッチを見返す。



 「ちょっちょっと待とう!うんうん、いやいや、ないないない!アハハハハ」




 まったく理解出来ない言葉を言うサッチに二人は困惑気味に首をかしげる。



 「えっと、君達は二人旅してるって言ってたよね?」

 「はぁ」

 「この新世界を女の子二人で」

 「はい」

 「うんうん、間違ってない……なら、えっと……その船は今から自分達の船に帰る為の小船かな?」

 「へっ?いや、これで旅してますが」

 「!!!!!!!!!!!!」




 何を言っているんだと瞳が答えるとサッチは凄い勢いで駆け寄ると思いっきり瞳の手を掴む。

 余りの事に驚いてその動きを見ていた瞳。




 「危ないでしょうが!!女の子だよ?女の子なんだよ!!ただでさえ物騒なこの海にこんな小船で航海しようなんてっ………ダメです!」



 いや、ダメと言われても困る。

 二人が困った様子でサッチを見ていると、サッチは二人の手を掴んで自分が荷物を乗せようとしていた買出し用の船に乗せる。

 何度声をかけても反応しないままサッチはモビーまで二人を連れて戻るとズンズンとまた手を掴んで甲板中央へと向かう。




 まさかの展開に二人はかなり焦る。


 確かに願っても無いチャンスではあるが、こんな急展開は頭が付いていかない。

 近づいてくる大きな存在感。

 それに顔を引きつらせながら優子は必死にサッチに声をかけるが全てを無視してサッチはついに二人を甲板中央へと連れてきた。



 強い存在感は間近だともっとド迫力。

 色々考えていた切っ掛けも出会いも全てぶっ飛ばした強引な展開。

 ゆっくりと視線を上げるとそこには、白ひげ海賊団船長、エドワード・ニューゲイトその人が玉座のような大きなソファに座っていた。



 グビグビと酒を飲みながら突然現れた優子と瞳を見る。

 気配は当然警戒している。

 どうしたものかと考えていると、サッチが二人の前に出る。



 「親父、頼みがある!」

 「グラララララ、どうしたサッチ」

 「この子達を仲間にしたい!」



 サッチのその言葉に白ひげは一瞬驚いた様な顔をするが、すぐにニヤリと笑う。

 突然のサッチの言葉に言われた二人も唖然としていた。

 どうしてこんな事になった。




 「女でガキじゃねーか」

 「女の子でも子供でも、腕は確かだ」

 「ほぉ………エースが言ってた女もコイツ等か?」

 「多分そうだ!」

 「グララララララ」



 
 楽しそうに笑っていた白ひげの視線が優子と瞳へと向けられる。

 見ただけで全てを見抜かれそうな真っ直ぐな視線。

 何度出会っても受ける衝撃は変わらない。

 海よりも広い懐の持ち主。




 「お前らはどうしたいんだ?息子の……サッチの言いなりかぁ?」



 その瞳が語る。

 そうならば、この船には必要ないと。




 ハッキリとした意図がとれる。





 ざわついていた甲板はいつの間にか静かだ。

 このまま黙っていても仕方ないと瞳が口を開こうとしたその時、1歩前に出て真っ直ぐ白ひげを見ながら優子が口を開く。



 (私に任せて)

 (おk、任せた)




 例え任せた結果、駄目になってもまた違う方法を考えようと瞳からのテレパスに優子は背中を押されるように言葉を紡ぐ。



 「私達にはやりたい夢があります。貴方方からしたら、まだ子供に見えるかもしれませんが、それでもそこらの大人よりもハッキリとした夢と決意と意思があります。私達の夢を聞いても尚、この船に乗せて頂けるならこちらから頭を下げてでも仲間にして欲しいです」

 「ほぉ……」

 「ただ」

 「なんだ?」

 「その夢を聞いて駄目だと言うのなら今すぐにでもこの船を下ります」




 ガキが生意気を言うと周囲にいたクルー達が笑っている声がする。

 それでも優子は真っ直ぐに白ひげを見た。

 船に乗る事は第一条件であるが、それが無理だったパターンは色々経験してきた。

 乗れないのなら、乗れなかったパターンに切り替えればいいだけ。




 「静かにしねーかアホンダラァ!」



 その時、白ひげの口にした一括で笑っていたクルー達はピタッと静かになる。

 ジッと優子を見る白ひげ。



 「夢ってのは何だ?」

 「私達には憧れる海賊船の船長が二人います」

 「二人?」

 「はい」

 「誰だァ」

 「一人は海賊王、ゴールド・D・ロジャー」


 ロジャーの名前が出た瞬間、ピクッと白ひげの眉が反応する。

 周囲にいたクルー達もその名前を聞いて少しばかり殺気だつ。

 その反応にイライラした様子で瞳は周りを睨むとそっと優子の背中に自分の背中をくっつけるようにして立つ。



 (優子さんカッコイイ♪惚れちゃう)

 (もう、茶化さないで!ココからなんだから)




 背中に感じるぬくもりが力をくれる。

 どんな状況になっても平気に思える確かな力が包んでくれる。

 だから、平気だと。

 優子は言葉を続ける。




 「ロジャーが見た世界を見たい。まずはそれが一つ。もう一つは、海賊王になろうとする人とその家族の旅を出来る事なら一緒に、無理と言うなら傍で見たい。この二つです」

 「………」

 「私達が憧れる船長のもう一人は、エドワード・ニューゲイト。貴方です」



 ハッキリそう言ったその時だった。

 向かってくる力を感じて瞳は不機嫌さをMAXにしてキッと睨むと拳を振り上げてこちらに殴りかかってきた男の拳を手で受け止める。




 「これはどういう御もてなしです?不死鳥さん」

 「カギが親父に生意気言ってるからよぃ、一発お灸を添えてやろうかと思ってねぃ」

 「生意気?それは……私達の夢の事を言ってるのかな?そうなら、いくら憧れている船のクルーであっても許せないんだけど?」

 「最初から知ってて俺達の前に現れたのかぃ」

 「だったら?」

 「尚更、お灸をそえる、よい!」

 「……キレた……あんた、やっぱりぶっ飛ばすわ」




 突然の事に優子は振り返る。

 マルコの拳を受け止めている瞳に周囲から驚きの声があがる。




 (ひーちゃん、駄目だからね)

 (わかってる……けどね……ココでコイツを許したら後で絶対に後悔する)




 真剣な目で瞳にそう言われて優子は見直したように瞳を見る。が。




 (何でこの野郎に好き勝手させたのかって絶対後悔してイライラで憤慨しちゃう!)

 (ひーちゃん!!)




 シリアスに格好良く決めたなァと関心していたらこれである。

 優子は思わずガクッとなるが瞳はそれに笑って、目の前のマルコをキツク睨む。



 「不死鳥さん、本気で私達の夢を『生意気』で片付けようってんなら海に沈めるわぁ……答えろ、どう言う了見でこの判断なんの?」



 真剣なその瞳にマルコは止まる。

 鼻で笑えるそんな目をしていなかった。

 そこには確かな覚悟と決意があるように感じた。

 だが、たからと言って。




 「『生意気』だよぃ」

 「上等」




 それだけ言って今度は瞳が渾身の力でマルコを殴り飛ばす。

 それを腕で受け止めたつもりだったが、思っていた以上の力にズズズズッと甲板の上を足が滑る。

 殴った体制を立て直すと手をブラブラとさせて瞳はフッと見下したようにマルコを見る。




 「人の夢にケチつけたんだから、それなりの覚悟をしてもらう」

 「フッ、覚悟?ガキ相手に何の覚悟が必要だって?」

 「決まってるでしょ、一発入れさせてもらう」

 「やれるもんなら」

 「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 「なっ!!」





 別に油断していた訳ではなかった。

 確かに目の前の相手をちゃんと見ていた筈なのに、気が付くと目の前にいて懐に入られていた。

 咄嗟の事で何とか受身を取るが殴り飛ばされた威力は殺せず、マルコはそのまま倉庫前の扉をぶち壊して吹っ飛んだ。


 こんな手はこれっきりだろう。

 粗、騙まし討ちのようなものだ。





 「カギカギ言うな、18歳は海に出たら立派な大人だバナップル!」



 フンッと鼻息荒くそう言うと瞳は白ひげへと視線を向ける。

 ゆっくりと優子の傍にいくとペコッと頭を下げた。




 「器物破損してすみませんでした、バナップルが悪いとは言え、本当にすみませんでした」




 しっかり目を見てそれだけ告げる瞳は優子の後ろに隠れる。

 大きな溜息をついて優子は再度白ひげへと視線を向ける。



 「妹がすみません」

 「グラララララララ。随分とじゃじゃ馬じゃねーかっ」

 「お恥ずかしい」





 ペコッと頭を下げる。

 そして白ひげを見ると白ひげは暫く二人を見た後、大きな声で笑った。



 「良いだろう、乗せてやる」

 「えっ!」

 「但し、乗るからには女だからって甘えは許さねー」

 「はい!」

 「グララララララ、お前ら新しい家族だ!面倒みてやれ!!」





 白ひげのその言葉で甲板は大騒ぎになる。

 真っ先にやってきたのはエースだ。

 優子と握手をして嬉しそうにその身体を抱き締める。

 動揺して慌てる優子を見て傍に来たイゾウがエースに一発入れる。



 「宜しくな」

 「こちらこそ」





 差し出された手を握り返した所で復活したエースがブーブーと文句を言い出した。

 そんなやり取りを見ていた瞳は不意に振り返る。

 倉庫から出てきたマルコは首に手をやりながらこちらへとゆっくり歩いてくる。


 「クソガキっ、効いたよい」

 「フンッ、わざわざ憎まれ役勝手出るからそんな目に合うんだよ」

 「っ!気づいてたのかよぃ」

 「真剣な人間の夢を笑うようなヤツではないと思っただけだよ」

 「カギが生意気いうなよぃ」

 「ガキ扱いやめろよ、おっさん」

 「おっさん!?俺ァまだそんな歳じゃねーよぃ!」

 「自分から見て私をガキ扱いするんだから、私から見ておっさん扱いしても問題ないでしょうよ?」

 「大有りだよい!」

 「だったらガキ言うな!私にはヒトミって名前があんのよ!」

 「そっちこそバナッブル言うなよぃ、俺はマルコって名前があらァ」





 互いに睨み合い言い合う。

 そしてフッとして笑いあう。

 優子とエースと同じ様にマルコは瞳に手を差し出す。

 それを握り返すとマルコは優しそうな顔で笑った。




 「これから宜しくねぃ」

 「宜しく」




 思ってもみない急展開。

 予定とは大幅に違うが、一先ず目的は達成された。

 それぞれクルー達に囲まれながら優子と瞳は目で合図をする。

 全てはココからやっと始まるのだと。
 
 


 To Be Continued

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