夢回路
□第十六話
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その瞬間から穏やかだった時間が一遍する。
何時ものような賑やかな食堂はドーーーンッと言う衝撃と共に空気が張り詰める。
食堂内に響く無線が流れた瞬間に食事をしていた者達は足早に食堂から飛び出した。
『敵襲!!海軍艦隊その数12!!!』
初めての戦闘、優子と瞳も甲板へと出る。
今日の戦闘は4番隊と2番隊の担当。
船に乗ってからの初めての戦闘と言う事もありエースは張り切っていた。
目視出来る距離にいる海軍船を見て腕を鳴らす。
「暴れるぜー!!」
「程ほどにな、エース!」
「わかってるってサッチ!」
実に楽しそうにワクワクした様子のエースは拳を叩いて準備運動を始める。
良いところを見せるチャンスとなれば新人が浮かれない筈もなく、他のクルー達も同様にウズウスしているようだ。
「ほんじゃあ、ウチらも頑張りますか」
「そうだね」
「うえええ!?ヒトミちゃん達も出る気!?」
「当たり前でしょ?ウチら一応、戦闘員で乗ってだよ?」
「けっけど!あぶねーって!!」
「ハンッ、簡単に私に傷なんか付けられるヤツがいたら今すぐにでも嫁いでやるよ!」
「マジで!?えっえ?マジ!?」
「本気にするなよぃ」
「痛でぇ!!」
瞳の発言に興奮しながら反応したサッチにマルコがキツイ一撃を入れる。
数日前に瞳と少しもめた(?)マルコはチラッと瞳の様子を伺う。
あれからこうしてちゃんと顔を合わせるのははじめてだ。
「んじゃあ気合入れて行こうかエース!!」
「おうよ!!」
「ひーちゃんもエースも程ほどにだよ?」
「わかってるって!」
「そうだぜユウコ?」
普段は喧嘩ばかりしているくせにこう言う時だけ意気投合して肩を抱き合っている二人に優子は溜息をつく。
近づいてくる海軍船に真っ先に飛び掛ったのはエース、続いて優子と瞳が動いた。
モビーから離れる瞬間、チラッと瞳の視線がマルコを見る。
その時、口パクで瞳が言った言葉にマルコは一瞬、面食らった顔をした後に笑い出す。
「クククッ『思いっきり暴れてやるから見てろ』とは大口叩いてくれるよぃ」
珍しく人前で爆笑しているマルコにクルー達も驚いた様子。
既に見えなくなった三人の姿にマルコは頼もしそうに視線を向ける。
「本当に困った新人達だよぃ」
「だな……まあ『見てろ、色ボケチキン』までが正確な台詞だったが」
「…………帰ったらお仕置きだよぃあのクソガキ」
(すまないヒトミ!)
思わず読唇術で正確に読み取ったビスタが言った発言にマルコが青筋を立てたのを見て思わずビスタは視線を逸らして瞳に心の中でわびたのだった。
第十六話 初戦闘
その光景を見ていたクルー達は誰もが余りの光景に言葉をなくした。
たった三人の人間が12もいる海軍船をほんの数十分で壊滅させたからだ。
天竜人が乗った船を護衛する為にいた海軍艦隊は航路にいた船に攻撃を仕掛けた。
攻撃を仕掛けた相手がまさかあの白ひげ海賊団とは知らなかったようだ。
天竜人の命令とは言え、喧嘩を売ってしまった相手の強さを十分承知している為、すぐさま航路を変えようとしたが時に遅かった。
「火拳!!!」
その叫びと共に船が分断される。
あっと言う間に2船が撃沈されたと思うとな空中でまるで舞うように翼を生やし華麗に扇を広げて水柱を放つ優子の姿に誰もが見惚れた。
「龍円舞」
龍の姿に変えた水はまるで本当に生きているように海軍船に巻きつき沈めていく。
そしてその後ろでも炎を身に纏った瞳が同じように翼を広げて炎の龍を操る。
「龍撃」
時間にして他の数十分の出来事だった。
その光景を見ているクルー達はまるで魅入ったように呆然と立ち尽くす。
「綺麗だ……」
強面の容姿からは大よそ似つかわしくない言葉が漏れる。
だが、それを笑う者はいない。
むしろ、それを肯定するように頷く。
目の前で戦っている筈なのに、まるで舞でも見ているような気分にさせる優子と瞳の姿はそれほど美しかった。
当然それに魅入られたのはクルー達だけではない。
あの九蛇の女帝に引けを取らないその姿に沈み行く船の上で天竜人の男は大声で呼びかける。
「嫁に来い!!」
まるで天に祈るようにそう手をさし伸ばし叫んだ男に優子は動きを止めて視線を向ける。
今まで色んな場面で出会ってきた天竜人、どの天竜人も全て嫌な人間ばかりだった。
あれが同じ人間なのだと思うだけで嫌悪感で吐き気がする。
優子はバサッと持っていった大きな扇を広げる。
天竜人を見て冷たくニッコリと微笑む。
その姿に男は歓喜したように何度も優子に向かって手を伸ばすが優子は微笑みながらゆっくりとその扇子を振り下ろした。
「冗談は存在だけにして下さいませ」
ドーーーーーン大きな水柱が上がる。
大きな天竜人の船は静かに海の中へと沈んでいった。
扇子をしまうと優子はエースと瞳と共にモビーに戻る。
海に沈んだ海軍船、暫く呆然としていた白ひげのクルー達もみな喜んで歓声をあげる。
大騒ぎの中、出迎えられた三人は胴上げまでされた。
嬉しそうに笑うエースを見て優子はホッとした。
無事なのは分かっている、あの事件まで彼が生きているのは知っている、だけど、心配になってしまうのも仕方が無い。
それから数日後。
ニュース・クーから受け取った新聞は新しい手配書が発行された事が記載されていた。
チラシと一緒に入っていたそれを見てクルーは大騒ぎしながら食堂へと向かう。
「エースとユウコとヒトミの手配書が出たぞ!!!」
「なに!?」
「マジか!?」
一斉に集まってきたクルー達は手配書を見て更に大騒ぎする。
そこに本人である三人が現れれば更に食堂は大騒ぎになった。
「なんの騒ぎだぁ?」
「ようエース!!お前達の手配書が出たんだよ!!」
「なに!?マジか!俺今、いくらだ?」
「1億5000万が3億5千になってるぞ!」
「まあまあだな」
「何言ってんだ、嬉しいくせに!!」
「へへへっ」
嬉しそうに自分の手配書を見ているエース。
そんなエースの横で同じように手配書を見ていた優子は若干顔色を悪くしながら口元を引きつらせた。
海軍の船を沈めたからには賞金首になる事は覚悟はしていた、していたが、自分が今みている手配書の金額は何かの間違いではないのかと思う。
不意にチラッと視界に入った瞳の手配書を見て優子は慌てて瞳の横にいく。
「なっなんで、私と金額違うの!?」
「なんでって……仕方ないじゃん」
「だから、なんで!?」
「だって優子さん……天竜人の船撃墜したじゃん」
「あ……」
瞳に指摘されて理由に行き当たった優子は愕然と項垂れた。
持っていた手配書がヒラヒラと床に落ちる。
WANTED ALIVE 水の舞姫 ユウコ 2億ベリー
WANTED ALIVE 炎の舞姫 ヒトミ 1億5千万ベリー
その手配書を拾ったマルコは書かれていた『ALIVE』の文字を訝しげに見る。
「どうしたマルコ?」
「サッチ、お前はこれをどう見るよぃ?」
「これ?」
「『ALIVE』オンリー」
「………政府の奴等はよっぽど、うちのお姫様達が欲しいみたいだなぁ」
「たくっ、厄介な問題ばっかり持ってきてくれるよぃウチの新人は」
ポリポリと頭をかきながらも仲間が高く評価されるのは嬉しいものだ。
何時もなら静かにしろっと言う所だが今日位はおおめにみてやるとマルコは手配書を持って食堂を後にした。
それから数日後、次に停泊した島で物資を補給してから次の無人島で改めて祝賀会が行われた。
海賊とは本当に宴会が好きなんだなぁと改めて彼等を見ていて思う。
何かにつけて祝いその姿はとても幸せそうで、こちらまで釣られる。
無人島の浜辺に切り倒して用意した丸太の木で椅子を幾つも用意して日が暮れる頃には大宴会が開かれた。
そんな中、近づく海賊船に周囲に殺気が漂うが見慣れたその旗に隊長各は張り詰めた緊張を解く。
嫌そうな顔をしながら白ひげに報告した後、近くに船を停めて降りてきたのは、今や四皇の一人とも呼ばれる男、赤髪のシャンクス率いる赤髪海賊団が浜へとやってくる。
「グラララララ、鼻垂れ小僧が何の用だぁ」
「何やら宴会の席で申し訳ないんだが、新人が入ったって聞いてなぁ、見物がてら療治の酒を持参した」
「グラララララ」
周囲の威嚇も気にせずに持っていた巨大な酒壷を軽々と白ひげに投げてよこす。
受け取った白ひげは持っていた杯にその酒を流しいれると一気に飲み干す。
「中々の酒だぁ」
「それは良かった」
戻された酒壷から自分の杯に酒を入れるとシャンクスもクビッと飲み干す。
戦闘は無しの今日は特別だと共に両海賊団揃っての宴会となった。
戦場で会えば敵同士の関係なのだが、そんな事は嘘のように大盛り上がりの宴会。
キッチンでサッチの手伝いをしていた優子と瞳はそろそろ片付いてきたからと宴会に出るように言われて自室で着替えると宴会が行われている浜へと向かう。
「優子さん、宴会先に出ててよ」
「えっ?どうしたの?」
「なんか疲れたから寝たい」
「えー……そう言ってひーちゃんそのまま寝て来なさそうだから、先に顔だけ出しなさい」
「それこそ、えー……」
「だーーめ、一応、私達の宴会でもあるんだから」
「えー、優子さんの初賞金2億のお祝いじゃないの?」
「それは言わないで!」
金額を聞くなり機嫌を悪くする優子に苦笑しながらも行くことを約束して、着替えを始める。
先に出ていてと瞳に言われて何度も念を押して浜へと優子は向かう。
今日着ているのは以前、イゾウに貰った浴衣だ。
何時もはお揃いで着ている浴衣だが、貰ったのは優子だけな為に瞳は珍しく別の柄の浴衣を着る事になっている。
夜風に浴衣を靡かせながら浜に向かった優子。
普段とは違う姿に優子を見るクルー達も動きを止める。
少し気恥ずかしさを感じながらも優子はそっと白ひげの元へと向かった。
「ほぉ……似合ってるじゃねーかァ」
「ありがとう親父さん」
「グラララララ、イゾウのヤツの見立てか?」
「うん、どうかな?」
「グララララララ、中々の上等な花が来たせいで野郎共も固まってやがる。グラララララ」
笑いながらクビッと酒を飲む白ひげの言葉に優子は静かな周囲へと視線を向ける。
誰かのゴクッと息を呑む音がしたと思うと一気に騒がしくなる。
何事かと戸惑っていると視線を感じた。
嫌な予感がした、見たくない、だけど、確認しない訳にもいかなくて。
優子はゆっくりと振り返ると、そこには、目を見開き唖然とこちらを見ている赤髪海賊団船長のシャンクスがそこにいた。
To Be Continued