夢回路
□第十七話
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最初の切っ掛けは、ニュース・クーから届く何時もの新聞を見た仲間達が騒いでた事から始まった。
新しく出てきたルーキーの手配書、そんな物は特に珍しいものでもない筈なのにやけに騒ぐから一体どんな新人が出てきたのかと興味を持った。
「お頭みてくだせー、これですよ」
「どれどれ……こいつぁ……」
手渡された手配書は三枚。
一枚は以前、自分の所に挨拶に来た、嘗て必死に追いかけたあの人と似た青年で、あのルフィの兄だと言うポードカス・D・エース。
出会った頃はスペード海賊団の船長をしていた男、なのに今は白ひげ海賊団にいると言うから驚いた。
だが、クルー達が騒いでいたのはその手配書のせいだけではなかった。
次の手配書を確認した時、そこに写った写真にまず息をのむ。
舞姫と称された手配書に記載されていたのはまだ若い少女だった。
写真からでも分かるその綺麗な顔と、何より微笑んでいるその顔が余りに可愛らしく見えた。
そんな少女が一体何をしたのかと確認してみれば、エース同様に白ひげ海賊団に入った新人であると記されていた。
更には、そこに記載されていた賞金金額は2億とかなりの異例な金額。
そして。
「ALIVEオンリーか、訳有りみてーだなその子」
「ああ……」
「お頭?」
ベンが何か言っていたが耳には入らず、頭からその手配書だけが離れなかった。
今までそんな事は一度もなかったのに。
だから、ベンを説得して噂の新人達を白ひげまで見に行く事にした。
第十七話 それぞれの思い
それから白ひげを捜して、彼等が無人島で宴会をしている事を知ったシャンクス達は船を飛ばしてその無人島までやってきた。
酒を持参して事情を話せば話がわかる男で、白ひげは特に何も言わず宴会参加を許可してくれた。
既に騒いでいた輪の中からシャンクスを見つけたエースが駆け寄り、簡単な挨拶をする。
意外に礼儀正しいエースはやっぱりあの人に似た笑顔をしていた。
そんな時、騒がしかった周囲が静かになった。
何事かと周囲をキョロキョロしていると、白ひげの船から一人の少女が歩いてきた。
和の国の衣装らしいものを身につけたその少女はゆっくりと白ひげの元まで歩くと何やら話しをしてまたそこから離れた。
その時、見た少女の顔。
手配書で知っていた筈なのに、その顔をリアルで見ただけで思わず胸が高鳴った。
他人からすれば良い大人が何を言っているんだと言われそうだが、シャンクスはその視線を逸らすことが出来なかった。
ボーッとみていただけ、だが、その視線に気が付いたのか少女がこちらを見てその視線があった時、何とも言えない衝動が自分の中に駆け抜けた。
「し……新人が入ったって聞いてな、挨拶に来た。あんた名前は?」
「手配書を見て来たのでしたら、名前はご存知でしょう?」
「あんたの口から聞ききたい」
そう言うと少女は少し驚いたような顔をした後に、少し照れくさそうな顔をして小さな声で名乗った。
「ユウコと言います」
「俺はシャンクスだ、宜しくなユウコ」
そう言って手を差し出せば暫くジッとその手を見た後に優子はそっとその手を握り返した。
ただの挨拶の握手、なのに触れ合ったその温もりに鼓動が高鳴る。
離れていく手を寂しく感じる。
年齢を聞けばまだ18歳、年下の子供とも言える年齢の少女相手に何をやっているんだと考えを改めようとするが頭から離れない。
ペコッと頭を下げてお酌して回る姿を目で追ってしまう。
「うちの新人を見すぎだよぃ」
「おっ、何だマルコか」
「何だとは随分な挨拶だよぃ」
「ダハハハハ、悪い悪い」
「ふんっ」
そっとシャンクスの隣に腰を下ろしたマルコは持ってきた酒をシャンクスの杯に入れると自分も同じように杯に入れた酒をグイッと飲み干した。
「んで、お前さんの目的はなんだよぃ?」
「ん?」
「惚けんなよぃ、ただの新人見物に会いにくる程、お前さんも暇じゃねーだろうよぃ」
「………いや、本当にそれだけで来たが?」
「は?マジで言ってんのかよぃ!?」
「マジだ」
「ハァ……四皇とも呼ばれる男が何やってんだぃ」
シャンクスはマルコの言葉にまったくだと呟くと杯に酒を入れて再びチラッと優子へと視線を向ける。
「ただの新人を見に来たってよりは………ユウコを見に来たみたいだねぃ」
「!?」
その瞬間持っていた杯を落としてシャンクスはマルコを凝視する。
シャンクスのその反応にマルコは一瞬驚いたようにシャンクスを凝視して、そして溜息をつく。
「サッチと言いお前さんと言い、相手はカギだよぃ。揃いもそろっておっさんが何やってんだよぃ」
「は?サッチ?」
「よい、ほら」
顎でクイッと示した先では、優子とそっくりな顔をした少女がクルー達に言われて着ていた和の国の衣装でクルッと回転して見せている所を、愛しそうな目で見ているサッチの姿だった。
普段のサッチをしているからこそシャンクスも驚いたように目を見張る。
何時もの彼なら大騒ぎしながら駆け寄り、他のクルー達のように騒ぐ所だが今は少し離れた所からジッと静かに見ていた。
「たくっ」
「あ、いや、俺は別に違うぞ?」
「何が?俺は何も言ってねーよぃ」
「マルコ……」
「ほんと、厄介なもんにばっかり目をつけられる新人だよぃ」
「おい!マルコ!俺はっ」
「よいよい」
「いや、『よいよい』って……違う……」
子供のように必死に訂正する自分が何とも情けなかった。
だが、マルコの考えはきっと今自分が導き出した答えを言い当てているように感じて、シャンクスは落とした杯に再び酒を入れてグイッと飲み干すと立ち上がる。
「嫁にはやらんぞ、グララララララ」
「!!」
自分の考えなどお見通しと言う感じの白ひげの言葉にギョッとしながらもシャンクスは豪快に大笑いする。
その声に周囲が静かになり全員がシャンクスへと視線を向ける。
「俺は海賊だ、何時か奪いに来る」
「グララララララ、今じゃねーのかァ鼻垂れ小僧」
「今やると逃げられるからな」
「グララララララ、だが………悠長にはしてらんねーぞハナタレ」
白ひげのその言葉に疑問を持ち、チラッと優子を見る。
そうして吹っ切れたように爽やかな気分でシャンクスは優子の傍に歩いていく。
その際、飲んでいるクルー達に引き上げの合図をしていく。
ゾロゾロと船に戻っていくクルー達を見送り、シャンクスは優子の前に立った。
「決めた」
「えっ?」
「あんたを俺の嫁にする」
「へっ!?」
そう言ってシャンクスの唇が優子の唇に触れて重なる。
余りの事に固まっているとシャンクスは優子の口を舌で強引に開けさせて優子の舌に吸い付く。
余りの事に周囲は騒がしくなる。
「ンンッ……ちょっ……ンッ……ヤッ」
その騒ぎにハッと正気に戻った優子は慌ててシャンクスの腕の中から逃げようと抵抗するが余りの事と何度かそう言う関係になった記憶が邪魔をして強く抵抗が出来なかった。
激しいキスをされながらどうしようかと焦り始めた時だった。
重なっていた唇が離れ、ついでに自分を抱き締めていた温もりも消えたと思うと別の香が自分を包んだ。
「何やってんだよシャンクス!」
「笑えない冗談はやめてくれや赤髪」
一発の銃声と炎の跡。
シャンクスは少しだけ燃えてしまったマントをパタパタと叩いて頭をかく。
そして優子を守るように抱き締めるエースとその前に立つイゾウを見て目を細める。
相手の目を見ればわかる。
同じ気持ちだからこそわかる。
「なるほど、敵もいるって訳か」
「グララララララ、そう言うことだァ。わかったらとっとと今日の所は帰りやがれ。じゃねーと親父として今度は俺がお前の相手をするぜぇ」
「ダァハハハハハッ、それは遠慮したい所だ」
エースの横にいる優子へと視線を向けてシャンクスはニッコリと微笑む。
「奪いに行く、俺は……海賊だからな」
それだけ言うとシャンクスは自分達の船へと戻っていった。
嵐のような男だと優子はシャンクス達の乗る船を見詰める。
To Be Continued