Game
□壱
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「は?何処だココ?」
「!?」
丸井ブン太の言葉に周囲に目を向けて幸村精市は唖然とした。
自分達が先程までいた部室とは明らかに違った。
時代を感じさせる古い感じの教室の中に着替えを終えていた筈なのにユニフォーム姿でそこに立っていた。
「どう言う事だろう?」
「幻覚……にしてはリアル過ぎるな」
幸村の隣で興味深そうに呟いた柳蓮二の言葉に全員が周囲をキョロキョロとする。
切原は自分の頬を抓ると痛みを感じて慌ててその手を離す。
「ふむ、ジャッカルと柳生はいないようだな」
「部室にいた全員じゃないのは何か理由でもあるんかのぉ?」
「原因として考えられるのは一つだな」
真田弦一郎の言葉に教室内らしき場所に確かに先程まで部室にいたメンバーの柳生比呂士とジャッカル桑原の姿がないことに仁王雅治は疑問を口にすると柳が視線を切原へと向ける。
「さっきのチェーンメールかよ?」
「恐らくな」
「話を聞いていただけなら全員だろうけど、同じ動きをしたのだろうと考えると【時計を見ろ】だったかな?俺はそれを聞いて時計を見たけど皆はどうだい?」
幸村の問いに全員が時計を見たと答える。
「柳生は鞄の中から俺に貸すノートを探しちょったから時計は見てない可能性が高い」
「ジャッカルは親にメールしてたからそのせいで見てないかもだな」
ココにいない理由がそれだと過程はしたが、時計を見ただけで一瞬にしてこの人数をココまで移動させるなんて事が出来るのかと言えば答えは普通ならNOだろう。
「あっありえねぇッスよ!こんなチェーンメールにそんな事できる訳がッ」
「シッ!ちょっと黙りんしゃい!」
「ちょっ何スか!?」
「静かにしろ赤也!」
「!?」
何か聞いた仁王が真剣な顔をして切原をそう静止すると切原は慌てて反論しようとしたが続いて同じく真剣な顔をした真田に言われて今度こそ押し黙る。
全員が静かに耳を澄ませば廊下の方から唸り声のようなものが複数聞こえた。
その余りにも気持ち悪いそれに誰もが動けないでいる中、切原だけはズンズンと教室の扉を開けて廊下の様子を窺う。
「危ないッ!!」
「柳先輩ッ!?」
「ドアを閉めろっ!!」
一瞬の事だった。
まるでゾンビのような姿をした無数の存在。
それが噛み付くように切原に襲い掛かったのを思わず柳が庇う。
手に噛みつかれ出血した柳を見てすぐさま動いた幸村がドアを思いっきり閉める。
ドンドンとされるのを背中で感じながらケガをした柳へと視線を向ける。
「弦一郎、蓮二のケガの様子はっ!?」
「深くはないッ」
「そう、良かった」
「っても、この状況どうすんだよっ!?」
幸村の隣で同じように丸井と仁王がドアを押さえる。
真田は首にかけていたタオルを柳のケガをした手に巻く。
とりあえずコレでと言う真田に礼を言い柳は唖然としている切原の肩をポンポンと叩いた。
「やッ柳先輩、オレッ」
「気にするな、お前のせいじゃない」
「けっけど」
「赤也、よくわからない状況なんだ仕方ない、気にするな」
「……すんませんッ」
震える拳を握り締め俯く切原に再度ポンポンと頭を叩くと柳はゆっくりと立ち上がった、その時だった。
【立海大附属中学 負傷者1名負傷レベル1 早急にホワイトを探して治療してください】
「「「「「!?」」」」」」
突然頭の中に響いた無機質な音声に動揺が走る。
何が何だかわからない状況とケガをした柳、それらのせいで幸村も内心焦っていた。
まるで何かのゲームのようなそれ、そこから連想してしまう結果、何度もその考えを否定しようとするが、どうしてもそこへと考えがいきついてしまう。
同じ事を考えていたのか険しい顔をした仁王と目が合う。
「クソッ!!何だって言うんだよ!!ホワイトってなんだよ!!俺達に何をしやがった!!」
「おっおい、ちょっと落ち着け赤也っ!」
「無理っス!!」
「即答かよぃっ!」
【切原赤也ヘルプ機能を使用で宜しいですか?】
「あー?ヘルプ機能?んだよソレ!いいから答えろよ!!」
【切原赤也ヘルプ機能使用承諾、回答。ホワイトとはマップ内で化物に噛まれた場合、穢れに感染した者を唯一治療できる存在。この空間に唯一人の存在です。】
「ココから出せよ!!」
【切原赤也のヘルプ機能は既に使用済みの為、その質問に対して回答する事は出来ません】
「ふざけんなよッ!!」
切原が頭の中に響くその声に苛立ち近くにあった机を思いっきり蹴り飛ばす。
荒く呼吸を繰り返す切原はこみ上げてきた涙を手でぬぐう。
「ヘルプ機能とやらを使いたい」
「弦一郎!?」
【真田弦一郎ヘルプ使用承諾】
「俺達はどうすればココから出られる?」
【回答。マップに存在するボスを他の仲間達と倒しそこにあるゲートからのみ脱出可能である。それ以外の脱出方法は無い】
静かになる教室内。
だが、すぐにドンドンと強くなるドアの向こうの力に抑えていた幸村は気持ちを落ち着ける。
「ひとまずココから出よう、幸いココは1階のようだし」
「そうだな」
「弦一郎は蓮二を頼む」
「わかった」
「丸井、仁王、いいかい一斉に離れて窓までダッシュだ」
「「ああ/おう」」
「赤也!」
「………」
「しっかりしろ赤也!」
幸村に怒鳴られてビクッと身体を振るわせると視線を幸村へと切原は向ける。
「赤也は急いで窓のドアを開けてくれ、全員でココから帰る、いいね」
「はっはい!!」
「よし、皆外に出たらとりあえず安全な場所を探す、絶対にバラけない事!分かったね!」
「「「「イエッサー」」」」」
「よし行動開始だ!」
幸村の掛け声で全員が気を引き締める。
そして一斉に動く。
ドアから入ってきたゾンビに似た化物達よりも早く窓から外に出る。
外にも化物がいるが距離はある。
幸い動きはさほど早くはなく十分に安全な場所を探しながら移動できた。
どうやらココは何処かの古い学校らしい。
広い校内で安全だろうと見つけた場所は大きな体育館。
中に入れば急いで頑丈なドアを閉める。
荒い呼吸を繰り返す。
だが、体育館の中に駆け込んできたのは自分達だけではなかった。
「アーン?お前達も巻き込まれたのか!?」
「跡部!?」
「手塚君!?」
「白石!?」
体育館の中には全国大会に出場していた学校が勢ぞろいしていた。
全員がユニフォームを着ている事から似たような状況だった事が推測できた。
見慣れた顔ぶれが増えると安心感も増える。
肩に入った力少しだけ抜けた、そんな気がした幸村だった。
To Be Continued