Game

□四
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 目を覚ますと、大好きな人が隣で寝ているなんて夢のような状況だった。

 身体は自分が思っているよりボロボロなのだろう、少し身体を動かすだけでも痛む。

 それでもなんとか身体を起こせば昨日いた図書室だった。

 覚えているのは今まで感じた事の無いような痛み、意識があるまま身体をバラバラにされているそんな感じの激痛。

 ブルッと振るえ身体を抱きしめる。

 もうあんな思いはしたくないと何度も首を振る。

 その時、左手がギュッと握られる感じがしてそちらに目を向ければ幸村が優美の手を握ったままだった事に気がつくと。

 嬉しくて思わずワタワタしたがすぐにその手に包帯が巻かれている事に気がついて一気に血の気が引いた。

 テニスをする大切な手を自分は昨日、何の気にもせずに力いっぱい握っていたように思う。



 「どっどうしよう、あっそんなっ」

 「んっ………」

 「なんて事を、幸村君、ごめんなさいっ!!」

 「えっ?藤原さん?」



 寝起きなのかボーッとしていた幸村に突然カバッと頭を下げて謝った優美に幸村は徐々に意識を覚醒させハッとしたように飛び起きた。


 「藤原さん身体は!?何処かまだ痛むかい!?」

 「ごめんなさいっ!」

 「藤原さん?何を謝って?」

 「大切な手に……私、なんてことっ本当に、ごめんなさい」

 「あー……大丈夫、そんなに酷いケガがじゃないから」

 「それでも!!大切な手にケガさせるなんて私ッ……」


 優美なら何となくこんな反応するのだろうなぁと昨晩、隣で寝ながらそんなことを思ったが思った通りの反応に幸村は苦笑しながらケガをした手が平気なことを知らせるようにその手でギュッと優美の手を握る。



 「大丈夫だから、そんな泣きそうな顔をしないで?テニスにも支障はないから」

 「本当ですか!?」

 「うん」

 「よかっ、良かったぁ」



 目の前にいるこの子の事がもっと知りたい、そんな風に昨晩から思っている自分がいる。

 好きな子は既にいて、目の前にいる優美は自分が一度振っている相手だと言うのにそう思わずにはいられないのは、同情もあるがそれだけではない気がする。

 そうしているとバタバタとする足音に警戒するが図書室に入ってきたのは柳や真田だった。



 「起きていたか精市」

 「ああ、何かあったのかい?」

 「もうじき朝食らしいから起こしにな」

 「もうそんな時間かい?」

 「おはよう藤原、体調のほうはどうだ?」

 「だっ大丈夫です、そっそれより柳君も手……昨日はごめんなさい手、大丈夫ですか?」

 「問題無い、かすり傷だ」

 「でっでも」

 「本当に平気だから、そんなに泣きそうな顔をするな」



 そう言って柳は自然な動きで優美の前髪をかきあげて頭を撫でた。

 普段そんなことをするタイプの人間でないことは幸村や真田がよく知っているだけに、柳のその行動に二人は驚いたように見つめた。

 見たこともない優しい笑顔で話す柳に幸村は少しだけ苛立ちを感じる。



 「一氏がヘルプを使って確認した所、午前中の12時まではセーフティ時間らしく化物は現れないそうだ。話し合いを軽くしたがそれぞれの学校で活動を決める事になった。練習しても良し、自由行動してもよしとのことだ」

 「そうか」

 「とりあえず朝食の後に今日は何人かで街の方に行って見るらしい、街は無人で衣類や食料はそのままあるらしく自由に使っていいらしいから着替え等を調達にいくようだ」

 「なるほど、決まったのはそれだけかい?」

 「今のところは、後はうちから誰が行くかとか練習をどうするかとかだな」

 「わかった、それは朝食の後に決めよう」

 「了解した」

 「藤原さん動けそうかい?」

 「あっえっと」



 幸村に言われて立ち上がろうとするが思ったより昨日のダメージが残っているようでグラッとふらついた身体を慌てて真田が抱きとめる。

 それにお礼を言うと再びそこに座り込む。



 「辛そうだね」

 「ふむ、ならば」

 「弦一郎!?」

 「きゃっ!」


 優美の身体を真田がひょっと抱える。

 バランスが取れなくて思わず真田にしがみつく形になる。


 「二人はケガもしているからな、俺が藤原を運ぼう」

 「ハァ……だからと言って何も言わずに動くな弦一郎、藤原が驚いている」

 「あっああ、すまない」

 「いっいえ、それより重くないですか?」

 「この程度なんとも無い、むしろもっと重くてもいいくらいだ」

 「弦一郎もう黙ろうか、ごめんね藤原さん」

 「いっいえ」

 「??」



 真田に抱きかかえられて優美は図書室を後にする。

 朝食の時間と言うだけあり体育館につくと長机と椅子が並べられて朝食が用意されていた。

 各校のマネージャー達が早くに起きて用意してくれたようだ。

 そこに入ってきた優美はやたら注目を集めていて俯きながら椅子に座った。

 一応、立海のメンバーがいる席に座っているが練習などの話をしている会話には入っていく勇気も図々しさもない為に優美は自分用の朝食を静かに食べた。

 あの輪に入っていけないのはとても寂しく感じるが、本来こんなに近くにいる事すら有り得ない、何より自分は幸村に一度フラれている。

 それなのにこうして話したり触れたり出来たのは本当に奇跡としかいいようがない。


 「よし予定はこんな感じだね、出来ればこんな週間予定は使わないで済むのが一番だけど。それじゃあ、今日の街への収集だけど弦一郎が居残り希望でほかは全員でいいんだね?」



 そう尋ねる返事が返ってきて幸村は頷くと席を立って優美の傍にいく。

 優美はパンを食べていると急に肩を叩かれてパッと顔を上げて幸村の顔を見てまた俯く。

 そんな優美にクスと笑いしゃがんで視線の高さを合わせる。


 「藤原さんは街へはどうする?」

 「あっ行き……たいけど……少し私は無理そうなので今回はお留守番してます」

 「まだ辛い?大丈夫かい?」

 「あっ本当にそれは平気なんですけど、体力的な意味で無理はしないようにしようと」

 「………そうか」



 体力的な意味、それを言われて幸村は押し黙る。

 いざと言う時に優美の存在は必要不可欠だ、もちろんヘルプで確認したように彼女の体力がない時にもし負傷者が出ても彼女が死んでしまう可能性も出る、故に体力がなくなるような行動は出来ない。

 懸命な判断だけど、この場所から離れられないのは余りにも可哀想な気がした。



 「ならば俺も弦一郎と残ろう」

 「蓮二?」

 「然程、すぐに必要な物はないし着替え等は仁王、頼めるか?」

 「了解ぜよ」

 「宜しく頼む、これで今日の予定は決まりでいいか精市?」

 「あ、うん。俺が残ればいいし蓮二は出かけてくれてもいいんだけど」

 「いや、咄嗟の判断や中村達のこともあるから精市は行った方がいいだろう」



 そう言われてそれ以上何も言えなかった。

 昨晩から柳の優美に対する態度が変わったのは目に見えて明らかだった。

 それが何だかとても嫌で。

 幸村は楽しそうに話す二人から目を逸らして決まった事を各校の部長たちの集まる場所へと伝えに向かった。


 回収組が出かけた後の体育館は先程までの騒がしさが嘘のように静かだった。

 真田は練習してくると席を外した為、体育館端で座っていた優美は不意に隣に誰かが座ったのに気がついてそちらに視線を向けると柳がいた。


 「事後報告で申し訳ないが隣に座ってもいいだろうか?」

 「クスクスクス本当に、もう座ってるよ柳君クスクス」

 「フッ、同じクラスなのに考えてみると藤原とはあまり話した事がなかったな」

 「言われてみれば、そうだね」

 「少し惜しいことをしたな」

 「え?」

 「いや」

 「クスクス」


 ニコニコと純粋に楽しそうに笑う優美に柳は心が動かされているのを自覚している。

 気にしだしたのは優美を抱いてからと、とても褒められた理由ではない。

 だけど、意識するには直接的過ぎるほど仕方の無い事。

 小さな身体で必死にしがみついて大丈夫だと言う姿はとても可愛らしくそして愛おしく感じた。


 「藤原は強いな」

 「えっ?そんなこと無いですよ」

 「いや、あんなことの後だ……そんな風に無理して何も無いフリをする必要はないんだぞ?もっと愚痴とかも言っていい」

 「………そんな、本当に大丈夫なんです」



 儚げな微笑だけど、とても優しいそれに胸がドクンッとなる。

 優美はゆっくりと顔をあげて回りを見る。



 「怖いとか辛いとか、それはきっと私だけじゃないし」

 「他と藤原が感じているものはまったく違うし、藤原の負担は大きすぎる位だ」

 「何がどれだけ誰の負担になるかなんてそれは、人それぞれだよ柳君」

 「!」

 「この程度ならコレくらいだろうと思っても、その人にとっては大きな事だったりするかもですし、だから比べるのは難しいと思うの、あんな化物と戦うなんて私には怖くて無理だもの、だから、他に出来る事があるならそれをするのは当然だと思うの」

 「………やっぱり君は強いな」

 「そんな、私は十分パワー貰っているから」

 「………精市か?」

 「はひっ!?」



 とたんに顔を真っ赤にしてうろたえる優美に苦笑する。

 優美が幸村を好きな事は一目瞭然だった。

 それほどわかり易い。

 だが、幸村には想い人がいる、それはきっと優美も知っているのだろう。

 それでもいいと言う。


 「やはり強い」

 「もう、柳君はそればっかりですね」

 「クククッそうか?」

 「そうです」

 「アハハハハッ」

 「もぉっ!」



 こんな風に女子と話すとは考えもしなかった。

 自分の好みのタイプとはまったく違うのに、それでも惹かれてしまう。

 優美を知れば知るほど惹かれている自覚がある。



 「外に出たくなったら遠慮なく言うと良い、俺が抱えて連れて行ってやる」

 「ほえええ、私重いですよッ」

 「藤原の体重は重いに入らない」

 「やっ柳君、もっもしかして私の体重……」

 「ああ、確か」

 「きゃーだめだめ、シッ!ストップです!!」

 「アハハハッ」


 くるくると変わる表情、それがとにかく愛おしい。

 To Be Continued

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