Game

□六ノ壱
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 午前中、ほぼ全校の生徒達が練習に出た後の体育館の中はとても静かだった。

 一人で自分に与えられたスペースに座り校内にあった図書館から拝借した本のページを捲る音がやけに大きく聞こえる。

 こんな時に部活をしている彼等の為に何か出来たらと思うのだけれど、テニスに関してそんなに知識はなくルールすら曖昧な自分に出来る事は無く更に、今の自分の役割的に余計に体力消費はしないで良いと各校の部長達にもやんわりと断られた。

 危険な場所にも行かせて貰えない。

 まあ、行った所で体力も無い自分では足手まといになることは明白。

 何か自分にも出来る事がないかとこうして何も出来ない時間に考える事が増えた。


 読んでもないページをパラッと捲った時に不意に聞こえてきたのは数人の女子達の声。

 現在ココにいる女子は自分以外では各校のマネージャー達である。



 「私達がさ練習の間に危険と隣り合わせで取りに行った食材とか服とかをさ、さも当然って感じで使っているの腹立つ」

 「あ、それ私も思ったわ」

 「それにさ、ホワイトだからって皆が仕方なく優しくしてるの当たり前に思ってる所も最悪」

 「部員に聞いたらさあの子、初めては好きな人が良いとか言い出して無理矢理、幸村君とセックスしたらしいよ?」

 「マジで?最低!!」

 「幸村君可哀想」

 「智子だって辛いよね流石に」

 「だろうね、私だったら絶対許せないわ」

 「ブサイクがさ調子乗るなって感じだよね」

 「マジそれ」




 聞こえてきた中傷。

 それは自分が聞いていると分かっていて言われている陰口。

 だけど、何一つ言い返す事なんて出来ない。

 あの時、幸村が優しさから申し出た事を自分は拒否せずに受けた。

 何もしてないのも事実。

 傍にいる事自体が不自然な自分には何一つ言い返す事は出来ない。



 「好きな人がいる人間に別の人間とヤレって言われる気持ちも知らんと、ようああ言う事が言えるわアイツ等」

 「!?」



 不意に聞こえた声に顔を上げればそこには四天宝寺中のユニフォームを着た男子が不快そうな顔でそこ立っていた。

 驚いてそちらを見れば男子はそっとそこに腰を下ろした。



 「練習キツクてちょい休憩中ですねん」

 「あ、そうですか」

 「………プッ」

 「ほえ?」

 「いや、サボるなとか何や言うかと思ったんスわ」

 「………ああ、サボたら駄目なんじゃあ?」

 「ククッアンタおもろい反応するなぁ」

 「!?」

 「まあ、あんなんは妬みみたいなもんやから気にする必要ないっすよ」

 「あ、ありがとう」



 そう言ってもらえると甘いかもしれないけど少しだけ軽くなる。

 荷物の中からタオルを出して渡せば驚いた顔をされる。




 「汗かいてるみたいだから」

 「あ、臭かったスか?」

 「え?何が?臭い?」

 「……ククッ、何でもないっスわ」

 「?」

 「藤原先輩、俺は財前光言います」

 「あ、どうもです。私は藤原優美です」

 「また声かけますわ」

 「えっ?」


 そう言ってヒラヒラと手を振ってさっていく財前に優美は不思議そうに首をかしげた。





 ここでの生活もそろそろ一週間になるそんな7日目、優美は荷物の中から本を取り出そうとしたその時、急に頭に響いた警報音に思わず持っていた本をバサバサと落とす。

 周囲にいた人間はそんな優美を不思議そうに見ている。

 今のが聞こえなかったのだろうか?

 一瞬、聞き間違いかと思ったのだが頭の中に聞こえた声がやけにリアル過ぎて間違いだと流せない。



 【負傷者1名レベル1】



 落としてしまった本を荷物の中に戻して急いで体育館の外に出ようとするが現在の時間はセーフティー時間外、つまり体育館の外には化物がいる。

 その為、出入り口を当番で管理していて、今日は比嘉中の当番、木手と平子場がそこにいた。



 「どうしたんですか藤原さん?」

 「あっあの外に、街に行った人達はまだ戻らないのですか?」

 「まだのようですね」

 「あっあの、すっ凄く胸騒ぎがしてッ」

 「やーアンマサンか?」

 「アンマサン?」

 「顔色が悪いから具合でも悪くなったのかと」

 「違います、私じゃなくてッ」



 そう言った瞬間に再度聞こえた言葉に身体ビクッとなる。




 【負傷者1名負傷レベル1】



 「だっ、誰かがケガをしたみたいなんです!!」

 「なんですって!?平子場君ココを少し頼みます」

 「おう」



 そう言って木手は残っているメンバーに話をして数人を連れて戻ってくると慌てて体育館の外に出て行った。

 待っていてくれと言われたがいてもたってもいられなくて他のメンバーに頼んで保健室へと向かう。

 酷いケガじゃなければいいと願う。

 出かけているメンバーの中には幸村もいる、誰が負傷したのかわからない今はとくにかく無事を願うばかりだった。

 暫くして慌しい足音が近づいてきて保健室のドアが開けば中に入ってきたのは青学のジャージを着た手塚達だった。



 「藤原ちゃん、不二を助けて欲しいんだ!!」

 「藤原さん頼む!」




 泣きながら頭を下げてきた菊丸と必死な形相の大石に言われて驚きながら入り口のほうを見れば肩を血で赤く染めた不二が困った様子でそこにいた。

 とりあえず手当てをと大石が手早く処置を済ませる。

 その間少し落ち着かない気持ちでいて治療が終わると優美は視線を不二へと向ける。



 「ごめんね、僕のミスで」

 「いっいえ、そんなッ」

 「本当にごめんね、君には好きな人がいるのに」

 「!?」



 そんなに自分はわかり易いのだろうかと優美は不二を凝視する。

 他のメンバーは外で待っているからと二人にされて優美は気を取り直して不二のケガをしてない方の手を引いてベットへと向かう。



 「凄く嫌な事かもしれません、私なんかで本当に申し訳ないです」

 「何を言ってるの?辛いのは君のほうでしょ?」

 「男の人だって傷つくし辛いことですよ」

 「………ごめんね藤原さん」

 「気にしないで下さい、皆で一緒に元の世界に帰りましょう」

 「ありがとう」


 優美のその言葉に不二は辛そうに微笑みそっと微かに震える優美の手を引いた。






 ぐったりとして失神している優美の横で不二は先程まで感じていた痛みと不快感が消えている事に驚きながら顔色の悪くなった優美の前髪をかき上げる。

 汗を拭いてやりながら楽になった身体を起こしてから、ある疑問について考える。

 静かにベットから降りると脱いだ服に着替えてそっと優美を起こさないように保健室から出る。

 保健室の外では各部長達が真剣な顔をしながら周囲を警戒していた。

 不二が出てきた事に気がついた菊丸や大石も不二が無事に治った事を知るとホッとした様子だ。


 「幸村、少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」

 「なんだい?」

 「彼女は今回と同じ方法で既に柳を治療したんだよね?」

 「そうだけど」

 「………」

 「何かあったのかい?」

 「彼女は初めてのようだった」

 「は?」

 「出血をしたんだよ」

 「えっ!?それは……」


 どう言う事か理解した瞬間に疑問が走る。

 彼女の初めては確実に自分だった、それは幸村が一番よく理解している。

 だけど、柳にも実は行為の翌日に同じ事を聞かれたが幸村にはサッパリ理由がわからない。



 「不二周助、ヘルプを希望するよ」



 【不二周助ヘルプ機能承諾】


 「ホワイトの治療後の身体の状態はどうなるか、出血している理由を答えてほしい」



 【回答:ホワイトは治療後に身体の傷が再生されます】



 そはれ所謂、処女膜と言うものが再生していると言う事なのだろう。

 だから、治療の度に彼女の膜は破れて出血している。

 それは身体に負担がかかっている理由も納得が出来た。



 「彼女のケア、今日は僕がするよ」

 「不二?」

 「きっと自分のせいで彼女に負担をかけてしまった人間はみんなこんな気持ちなんだと思うから、そう言う決まりにしたらいいと思う」

 「しかし、お前はケガをしている」

 「そんなのは彼女のおかげなのかわからないけど、行為が終わる頃にはかすり傷程度になっているから平気だよ」

 「本当か!?」

 「ああ、今から練習しても平気なくらいには回復してるね」




 それだけ言うと不二は一度シャワーを浴びて着替えを済ませると本などを持って再び保健室へと向かった。

 そんな不二を見送り幸村はジッと自分の手を見つめる。



 『最低な子でごめんなさい、それでも、幸村君が初めてで嬉しいです』



 泣きながらそう言った彼女の顔が思い浮かび思わず強く手を握り締める。

 どれだけ彼女を傷つければこの世界はいいと言うのだろうか。

 それを思うと幸村は思わず廊下の壁を強く殴りつけた。


 To Be Continued

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