Game

□七
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 誰かに優しく頭を撫でられている感じがして目を覚ます。

 最初に視界に入ってきたのはこちらを心配そうにみている不二の姿だった。

 どうしてそこに不二がいるのかと疑問に思ったがすぐに身体の気だるさと疲れに理由を把握すると気恥ずかしい気持ちになりながら身体を起こした。

 柳の時も思ったのだが、目が覚めると綺麗に後処理をされていた。

 脱いだ筈の衣類を身に付けている事から誰かが着せてくれているのはわかる、だけどそれをしたのが同姓ではないだろう事と、多分それが行為を行った相手なのだと察すると羞恥心で赤面してしまう。



 「あっあの、すみません色々」

 「身体は?何処か辛いところはない?」

 「いっいえ、私は別に……それより、不二君は大丈夫ですか?」

 「!」
 


 驚いたように優美を見た後、不二はそっと先程と同じように優しく頭を撫でた。

 そして、暫くしてジッと優美を見つめる。




 「君のお陰ですっかり元気だよ」

 「良かった」

 「君は……優しいね」

 「えっ?」

 「いや、それよりも幸村達からの伝言で気がついたら図書室に来るようにって事だったけど身体は動かせそうかな?明日にしたほうがとは言ったんだけど、何か大事な事らしいんだ」

 「あっ……い、今何時ですか?」

 「夜の11時30分だね」

 「大変、あの……その、私まだ動けそうになくて、すみませんが手を貸してもらっても良いですか?」



 不二に時間を言われて優美は慌てて身体を起こす。

 フラつく身体でベットから降りた優美を不二は慌てて抱きかかえる。



 「あっあの!?」

 「君は重くないから大丈夫、図書室まで行けばいいんだよね?」

 「でっでもッ」

 「不二はケガをしているから無理はしないほうがいい、藤原さんは俺が運ぶよ」



 不意に聞こえた幸村の声に二人が驚いている間に幸村は不二から優美を受け取ると横抱きにする。

 優美は赤面しながら重いからと言うが気にした様子もなく大丈夫と笑顔でそう言うと跡部達と一緒に図書室を目指した。

 化物達を倒し全員で図書室の中に入ると、図書室の中央に以前は無かったマットに布団が敷かれた場所があった。



 「少しでも負担が減るように用意したんだ」

 「こんなっすみません私なんかの為に」

 「俺達はこんなことしかできねーからな」

 「堪忍な」



 部長達に揃ってそう言われると優美はその心使いに涙を流す。

 広い位の布団の中央に座ると手に手袋をしてもらう。

 口にはタオルをつけて座る優美を見て不二は事情説明を手塚に求めた。

 簡単な理由を聞いて慌てた様子で左手を掴む。



 「君にこんなに負担をかけるなんて思いもしなかったッ、ゴメンッ」



 辛そうに謝られると優美は笑顔で首を振る。

 大丈夫だと気にしないでと言う優美の右手を幸村はそっと掴む。

 手袋なんてしなくてもと言ったのだけれど、大事な手に傷はつけないからと優美にキッパリと断られた。

 何時もは大人しく特に意見などはしないタイプの優美が見せたハッキリとした拒絶に正直驚いた。

 
 『テニスの為に必死に病気と戦ってやっと自由に何時も通りテニスが出来るようになったのにケガをしてまたテニスが出来なくなる時間が出来るなんて、そんなこと駄目に決まってます!!そんな目に幸村君を合わせるなんて自分でも自分が許せないから』


 そう言われた時、不覚にも涙が出そうになった。

 こんなに自分の事を考えてくれる人間がそんなにいるだろうか?

 その言葉が本当に嬉しかった。


 時間がゆっくりと迫ってくる。

 徐々に優美の顔色が悪くなり身体がカタカタと震えはじめる。

 前回の時のように全員が優美の傍にやってくる。



 「傍にいるから」



 そう幸村に言われて優美が涙を浮かべて頷いた次の瞬間、優美の身体がバタッと倒れる。

 タオルに消えていく悲鳴と暴れる優美を全員で抑える。

 話に聞くのと実際に苦しむ優美を見ると不二は泣きそうになる。

 必死で呼びかけても余りの激痛に苦しんでいる優美には届かない。

 浮かび上がる痣は前回同様に遅く幸村は何度も優美の名前を呼ぶ。




 一時間程度時間が経過した頃漸く痣が完成して優美は泣きながら意識を手放していた。

 その涙をそっと拭きながら幸村はそっとタオルを外してあげた。



 「後は任せたぞ幸村」

 「わかってる」

 「え?」

 「これ以上藤原さんに負担かけられへんから、ココでこのまま彼女を休ませてあげるんやけどその時に幸村君が傍にいたほうが彼女も少しは嬉しいだろうからってことで幸村君はココに残ることになってんのや」

 「そう……なんだ」

 「不二君も色々疲れたやろ?今日はゆっくり休み」



 白石にポンポンと背中を叩かれて図書室から出る時、チラッと振り返って改めて思う。

 彼女が好意を寄せているのは幸村だと知っていた筈なのに、あそこに当然のように残れる幸村を何となく羨ましく感じた。




 キングサイズの布団の中、そっと彼女の手を繋いだまま横になる。

 ぐったりとした顔色は未だ良くない。

 月明かりが差し込むその部屋で幸村はそっと優美の前髪に触れた時、瞼が動いたと思うとゆっくりと優美が目を覚ました。


 「ごめん、起こしちゃった?」

 「………幸村くん?」




 夢でも見てるような優美の様子にこれは寝ぼけてるのかな?と幸村が思っていると優美がそっと擦り寄ってきて思わず心臓がドキッと高鳴る。

 ギュッと握られた手の感じに頬に熱が集まるのを感じる。

 動揺している間にも優美は幸村の胸元に額を当てると小さな声でしゃべり出す。



 「だいすき」




 聞き取れたその言葉に身体が熱くなる。

 心臓がうるさい位に反応した。

 そっと優美の顔を上げさせると幸せそうに微笑まれて気がつくとキスをしていた。

 最初は触れるだけのキスだけど、彼女の唇を開かせて舌を入れれば鼻から抜ける甘い声に身体が熱くなる。

 このままだと駄目だと自分にセーブして唇を離せば幸せそうトロンとした目でこちらを見つめられて必死に自制心にブレーキをかける。



 「ファーストキスも好きな人なんて私は幸せものですね……本当に……夢でもうれしい」



 それだけ言って眠りについた優美の言葉に幸村は思わず息を呑む。

 自分は一体今何をしたのだろうと考えるとなんとも言えない気持ちになった。

 せめて初めてのキスだけは好きな人に残したほうがいいと告げた時、優美はとても傷ついた顔をしたのを今でもハッキリと覚えている。

 キスはだけはないようにと治療をする二人にも話しをした。

 なのに、一度振った人間が自らそれを破ってしまった。

 そっと、幸せそうに眠る優美の身体を抱きしめる。

 それだけで幸せを感じる自分の心はもう以前好きだった子よりも目の前にいる子に動いている。

 この世界に来て初めて良かったと思う事が出来た。

 幸村は優美を抱きしめながら不謹慎にもそう思いながらそっと目を閉じた。

 To Be Continued

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