Game

□八
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 これはまだ夢なのかと思う状況に一瞬、言葉を失う。

 暖かい何かに包まれているような感じの正体は大好きな人なんて夢でしか有り得ないと思っていた。

 きっと別の誰かと間違えているに違いないと思うと浮かれていた気持ちが沈む。

 こんな風に彼の恋人はこんな瞬間も独占できるんだなと思うと心から羨ましくて、早くそこから抜け出ないといけないのに中々それが出来ない。


 結局、幸村が目を覚ますまで動けなかった優美はゆっくりと目を覚ました幸村と目が合うと慌てて身体を起こそうとしたが、クイッと手を引かれて再び幸村の腕の中に戻される。


 「あっあの!?」

 「まだ、時間には早いだろ?無理しないでもう少し休んで?」



 そう言われて再び幸村と見詰め合うようにベットに横になるが、恥ずかしくて休むどころではない。

 自分でも赤面しているのがわかる。

 心拍数がドンドン上がっている。




 「クスクス、藤原さんは可愛いね」

 「えっ!?」

 「いや、うーん……そうだな、眠れないなら少しお話でもしようか?」

 「はひっ!」

 「クスクス、じゃあ………自己紹介?なんてどう?」

 「自己紹介ですか?」

 「うん、俺は君の事をちゃんと知らないから教えて欲しいんだ」

 「えっ?」




 ドキッとする優しい微笑みに言葉を失う。

 何でそんな事を幸村が言うのか優美にはまったくわからなかった。

 だけど、その瞳は決して茶化している感じはなく、むしろ信じられない程真剣なもので……。



 「それじゃあ、名前からお願いします」

 「ええ!?あ、はい!えっと……立海大附属中学3年F組16番藤原優美です」


 とりあえず言われるまま自己紹介をすれば、一瞬キョトンとした顔をされた後に幸村はまたクスクスと笑い始める。

 自分はまた何か間違えたのかとオドオドする。



 「クスクス、ごめんごめん。藤原さんは何も悪くないよ、ごめんね気を悪くしたかい?」

 「いっいえ、けど、何がそんなに可笑しかったのかと……」

 「ううん、まさか出席番号まで言ってくれるとは思わなかったから」



 指摘されて始めて自分が緊張からどうでも良い事まで言っていた事に気がついて再び赤面する。

 だけど、幸村はそんな優美の頭を優しくポンポンと叩くとまた優しく微笑む。



 「今度は俺の番だね、立海大附属中学3年C組21番幸村精市です」

 「よっ宜しくお願いします!!」

 「クスクス宜しくね、じゃあ、藤原さんの趣味とか聞いてもいいかい?」

 「はひ!?えっえっと……趣味はガーデニングです」

 「え?」

 「あ、あの!違う!!いえ、違わないんですけど、でっでも」

 「藤原さん、落ち着いて。大丈夫、別に変とか嫌だとか思ってないから」

 「………最初は、その……好きな人の趣味だから気になって……でも、色々調べたり勉強したりしているうちに本当に楽しくなって……」



 顔を真っ赤にしながら自分が趣味にしているガーデニングに興味を持ってくれたなんて気になっている子に言われたら男は誰でも心にくるのではないだろうか?と幸村は思わずギュッと抱きしめたくなる衝動を抑える。

 どうして彼女はこうも無意識に凄い事を言うのか幸村は心臓に悪いと心の中で苦笑する。

 純粋に好感が持てたし、それに、凄く嬉しかった。

 彼女の言葉や態度は良い意味でも悪い意味でもハッキリしていて素直だ。

 嘘がない。

 だから、思っている事感じている事を読み取りやすい。

 彼女の自分への気持ちが直に伝わるからこそ、幸村は自分も赤面しそうになるのを必死に気持ちを落ち着けて耐える。



 「そうなんだ、えっと……今度は藤原さんも俺に何か質問ない?」

 「ええ!?」

 「聞きたい事とか……あればいいんだけど」

 「あ!あります!えっと……いっぱいあって……でも、えっと……好きな子のタイ……あ、やっぱりやめて………どんな、どんなッ……」

 「………」



 ジワッと浮かび上がる涙に思わず幸村はそっと手の指でそれに触れる。

 優美はどうして自分はこうも駄目なんだろとうと自己嫌悪する。

 わかっている事をわざわざ聞いて自爆するなんてあまりに馬鹿すぎると。



 「好きな女の子のタイプは、健康な人……だったんだけど、最近は少し違うかな?」

 「ッ」

 「純粋で一途な子になってる……」

 「!?」


 そう幸村に言われて視線を幸村へと向けば真剣な目でこちらを見ている幸村と目が合う。

 心臓が大きく高鳴る。

 目元に触れていてた手がそっと頬に下りて優しく触れられて更に心臓が激しく高鳴る。



 「ねぇ、きいてもいいかな?」

 「はっはいッ」

 「藤原さんの……今の好きな男のタイプは?」

 「!?」

 「君も俺と同じでタイプが変わってしまった?」



 そう聞かれて優美は思わず頬にあった幸村の手に触れる。

 その手に自分から触れられる日が来るなんて本当に夢のようだ、だけど、伝えないといけない気がして緊張しながらも幸村の手の温もりに力を借りて口を開く。



 「変わってないです!私のタイプはココに来る前からずっと……変わらないです」

 「!!」

 「きゃっ!?ゆっ幸村君!?あっあの!」



 そう言われて幸村はそのまま優美の身体を抱き寄せる。

 力は入れずだけど、しっかりとその小さな身体を抱きしめる。

 腕の中でパニック状態の優美には申し訳ないけれど、とても今の自分を見せられないと思った。

 顔は絶対に赤面しているし、不覚にも優美の言葉に感動して泣いてしまった。

 零れ落ちる涙を拭いてドキドキと高鳴る胸に答えを見つける。

 自分は思っていた以上に単純なのかもしれない。

 だけど、それでも、悪い気はしない。

 腕の中にいる女の子が好きだと今のでハッキリと自覚した。



 「一度君を振って傷つけといて勝手かもしれないけど、変わらないでいてくれる事が嬉しい」

 「!!」

 「勝手でごめん、だけど、許されるならあの時言った俺の言葉を撤回させて欲しい」

 「!!???」

 「君には酷い事を沢山しているけど、それでも許されるなら……」


 それ以上は口には出して言えなかった。

 まだ、それを言う事は許されない気がした。

 だけど、腕の中の優美が許すと小さく言ってくれただけで、今は十分だった。


 To Be Continued

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