Game

□九ノ参
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 「ちょっと来てくれッ!」

 「!?」


 一時間が過ぎた頃だった。

 保健室の前で待機していた幸村達の耳に焦った跡部の呼び声がして全員が慌てて中に入る。

 上半身裸の状態の跡部は焦った様子で入ってきた柳に声をかける。


 「おいっ!治療が終わった後の藤原は何時もあんな風になっていたか!?」

 「なに?」



 慌てた様子の跡部に幸村はすぐさま優美のいるだろうベットへと向かった。

 確かに行為の後の優美はグッタリとして失神している事が多い。

 だけど、今回は明らかに様子が違った。



 顔色は悪く、まるで呼吸をしていないようで慌てて口元に手を持っていくと微かではあるが呼吸はしている。

 だけど、それでも、その呼吸は余りに弱い。



 「ちょっと失礼するで?」



 跡部が心配になり様子を見に来ていた氷帝メンバー。

 動揺している幸村にそう声をかけて忍足はそっと優美の様子を伺う。

 専門家じゃない、親がそう言う仕事をしているから少し他者より知識があるだけだが、そんな素人の自分の目から見ても今の優美の状態が危険な事はわかった。

 険しい顔をして保健室の中を見渡すと、まるで用意されたように人工呼吸器がそこにあった。



 「胸糞悪いわ………、あそこにある機械一式こっちに持ってきてくれ!」



 一度読んだ事がある専門書の知識を必死に思い出しながら何とかその装置を優美に取り付ける。

 装置のおかげで状態は安定したように思うが、それでも、まだ良いとは言えない。



 「説明してくれや?自分等、まだ俺らに言うてないことあるやろ?」

 「忍足?」

 「治療が性行為言うんは聞いたけど、彼女のこの状態はどういうことや?その焦り方からすると毎回こんな状態ちゃうっちゅうことやろ?なら、何で彼女は何時もその日は体育館に戻ってこんのや?」



 流石の観察眼だと言えた。

 困ったように視線を逸らす者達に忍足はため息をつく。


 「今更隠し事もないちゅう話やで?」

 「話さなかったのはそれなりの理由がある」

 「真田?」

 「もう隠してはおけんだろ」

 「………そやな」



 そして、彼女の役割の全てが語られた。

 それ聞いて氷帝のメンバーは言葉を失う。

 自分達が聞いていた以上に彼女の負担は大きかった。

 どうして彼女だけ何もしないでいいと言われていたのかやっと謎が解けた。



 「なるほどな」

 「何でそんな大事な話黙ってたんだ!?全員に言うべきだろ!」

 「宍戸の言う通りだぞ!!」

 「自分の取る行動が一人の女子を苦しめる事になる。そんな事を知って何の躊躇いも無く戦えるのか?」

 「!?」



 そうこの事実は全員に伝えるかどうかでかなり揉めた。

 言うべきだと言う者と言わないべきだと言う者。

 結局、その判断は優美に決めてもらったのだ。



 『私の事を気にして、もしそれが逆に動きを鈍らせて危険な目に合わせる事になるのは絶対に駄目です!』



 そう言われると何も言えなかった。

 だから、伏せた。




 「気にしないでいける者もいるだろうが、出来ない者は確実に出てくる。だから伏せた」




 静かになる室内。

 時計の秒針の音がやけに大きく感じた。




 「事情はわかった、なら聞くけど、あんな状態でもその穢れの対価は支払わなアカンのか?」

 「!?」




 それを言われて幸村はガバッと顔をあげる。

 時計の針も22時を指していた。


 「それが、どんなもんなんか知らんけど、今の彼女がそれを受けるなら確実に死ぬで?」




 それは余りに厳しい言葉だった。

 誰の目から見てもそれは明らかだ。

 彼女が対価を払っている所を見てきた者なら誰もがそれを考える。



 「ヘルプ、誰かヘルプを使ってくれないか!?」

 「おっ俺使います!」

 「長太郎!?」

 「あの!ヘルプ希望です!!」



 【鳳長太郎ヘルプ使用承認】



 「幸村さんどうぞ!」

 「ありがとう!聞きたい、対価の身代わりは可能なのか!?」



 【回答。それは可能です】


 「本当に!?なら俺が変わるよ!」



 そう幸村が名乗り出た瞬間、奥のカーテンがゆっくりと開く。

 口につけていた人工呼吸器を外しフラフラしながら優美が現れる。



 「それは駄目……ですッ」

 「藤原さん!?」

 「自分無茶しよるなぁ」



 慌てて優美の身体を一番近くにいた忍足が支える。

 とても立てる状態ではない筈なのにと忍足は優美の意志力の様な物に驚かされる。



 「それだけは駄目ですッ」

 「そんな事言っても、それしか君を助ける方法はないんだよ!?」

 「それでもッ」



 頑なに拒否する優美に言葉をなくす。

 暫く沈黙が続く。



 【方法はもう一つあります。ホワイトの代わりに8名が半分の代償を受ける。現時点で彼女を救える方法はそれしかありません。前者は彼女がそれを望まない場合は実行不可能です】


 「そんなッ………」

 「おいっ!気を失ってるわ。んならそれでやるしかないな」

 「そうだね」



 出来るだけ優美に負担をかけないように図書室のベットに寝かせる。

 対価の身代わりに名乗り出たのは、幸村・真田・柳・跡部・白石・不二・手塚・木手だった。


 全員が優美を囲むように手を繋ぎ座る。



 「どんな結果になるか分からない、何かあった時の対処は頼んだぞ忍足」

 「わかっとる」



 全員が緊張する中、時計の針が0時に近づく。

 そしてその瞬間、全員が思わずその感覚に呻く。



 「くうっ!!!!」

 「手はッ……離すなよ!!彼女に負担が行く!!」

 「わかっ……ッ…てるッ!」



 今まで経験したどの痛みよりもキツイそれに必死に耐える。
 


 生理的に浮かぶ涙。

 力の入りすぎた手には血管が浮き出る。




 そして思う、コレで半分。



 しかも、その半分を8人で割ってこの痛覚、彼女がこれまでどれだけの痛みを感じていたのかを思うと余計に悔しかった。



 自分達はこれだけでも耐え難いと言うのに。


 優美の胸に出来る痣は遅くその時間は永遠に続くようだった。


 To Be Continued

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