Game
□間章
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跡部と久保春香が別れた事はすぐに広まった。
ハッキリと態度に拒絶を出す跡部と必死に関係を修復しようとする久保の姿は何とも言えない空気を出す。
久保はそれをまだ納得していないようで毎日、跡部に話かけているがそれを跡部が全面的に拒否していた。
時には強く拒絶の言葉を口にする事もあるようだ。
この世界に来て自分も変わったと幸村は思う。
だけど、それは自分だけではない。
あの日、藤原優美が目を覚ました日の夜。
対価を支払うその時、跡部はハッキリ口にした。
『目を覚ました時、傍にいるのが幸村がいいのはわかるが、今日だけは俺が傍にいることを許してほしい』
跡部のせいで彼女が辛い目にあうのに何を言っているんだと言いたくなったけれどそんな風に人に頭を下げて頼む跡部というのを初めて見たせいか、回りはそれを納得した。
だから、納得してなくてもそれを受け入れることになった。
それから跡部の態度が変わった。
暇さえあれば彼女の傍にいるようになった。
楽しそうに談笑している二人を見るとハッキリとさせていない自分が悪いと言われているようで気持ちが焦った。
そして、思う。
こういう窮地できっと人間の本心が出る。
それは普通にしていれば知る事はないものなのかもしれないけれど、だけど、知ってしまった以上はもう元には戻れない。
きっと跡部もそうなのだろうと何となく思った。
跡部は自分と同じモノを見つけたのだと。
「藤原、これ使えよ」
「あっありがとう、跡部君」
「いや、他に何か困った事があったら遠慮なく言え」
「う、うん、けど」
「他校とかそんなの関係ねぇからな」
「はっはい」
上着を彼女に渡し会話している跡部の瞳は優しい。
以前はそんな風に笑っていなかったように思う。
あの久保と付き合っていた時でもだ。
『話してみて、関わってみて初めてわかるものなんだな』
優美を見つめ優しく微笑みながら言った蓮二の言葉が頭に残る。
そう彼女と関わった人間は皆気が付く。
そして惹かれていく。
自分もそうであるように。
だから、焦る。
「藤原さん、何を読んでいるの?」
「ゆっ幸村君、あっあの、コレ」
「あっ……フフ、それはね俺も前に読んだけど凄く良いよ」
「幸村君も読んだのですか!?そうなんだ、へぇ」
家庭菜園の本、それを見せられてそう言えば嬉しそうにその本を抱きしめる。
そんな彼女の姿が嬉しくて同時にホッとしている自分がいる。
ココにいる連中は皆、自分の目から見ても女子には魅力的な男子が多い。
そんな男子と普段なら接点なく関わる事がないが、この世界では衣食住を共にしている。
一緒にいる時間は多い、だから彼女の目が他に行くのではと思わずにはいられない。
自分は二度、彼女を傷つけている。
それはどんなに取り消したくても取り消せない事実。
泣き腫らした目で図書室にいた彼女の姿が忘れられない。
そして、一番酷いのは自分にとっても彼女にとっても初めての行為の時、自分は義務的態度で接していた。
それを彼女が気が付かない筈はなく辛そうな顔をしていたのをハッキリと覚えている。
思い当たるだけでも2度は確実に彼女を酷く傷つけた。
だけど、自分でも気づかないうちに自分が彼女を傷つけていたかもしれない事を考えると思わずにはいられない。
彼女はそれでもまだ自分に好意を持っていてくれているのだろうか?と。
確認しないと不安で仕方がない。
「あっあの、幸村君のおすすめが……その……あったら教えて下さい」
「え?あ、うん、なら後で持ってくるよ」
「お願いします!」
「クスクス、了解」
誰かをこんなに切なく愛おしく思う日が来るとは思わなかった。
本当に、人生には何が起こるか予測が出来ない。
だけど、後悔だけはしないようにする。
ああしていれば、こうしていれば、なんて言うのは病院で散々思い知った。
先延ばしに出来る問題でもない。
負けられない、負けたくない、譲れない、譲りたくない。
「ねぇ藤原さん」
「はっはい!」
「名前で呼んでもいいかな?」
「はひ!?」
「クスクス、駄目かな?」
「いいいいええ、どっどうぞ!」
「ありがとう、それじゃあ後で本持ってくるよ優美」
「!!!!」
真っ赤に赤面する彼女を抱きしめたくなる衝動を抑えて、離れる。
もう二度と傷つけない。
そう誓いながら。
To Be Continued