Game

□十一
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 『叶わないと思った事が叶っただけでもう十分なんです。不謹慎だけど良かった』


 そう涙を流しながら言った彼女見た瞬間、自分でも意味が分からない位切なくてそして胸がまるで何かに鷲掴みされたような気持ちになった。

 強いと思ったそして凄い子だと思った。

 自分の想い人には既に別の女の子がいると分かっていっても、それでも思い続けていて。

 いくら想い人の頼みでも、自分ならきっと答えられないと思った。

 男の自分でも嫌だと思う事なら、女子なら余計だと思う。


 それでも彼女はそれを受け入れた。



 幸村君の義務的な態度を見て、きっと彼女は泣いてるだろうと思って入った保健室。

 事後の余韻が残るその部屋の中で泣きながら衣服を整えていた彼女の姿が忘れられない。



 あの日から毎日、気が付くと彼女を目で追ってる。



 それが何故なのか流石にわかる。

 自分は彼女に惹かれている。

 恥ずかしい事にこれが一目惚れと言うヤツなんだろう。




 「まーた、考えてるん?彼女のこーーーと」

 「うわああああっ!!」

 「ゲッフッ」

 「小春!?白石いきなり何しとんのや!?」

 「ああ、なんや小春か、堪忍ビックリしてつい」

 「ついってお前、めっちゃモロ顔面に右ストレート入れといて・・・」




 セーフ時間に外で練習をしながら気がつくとまた体育館のほうへと視線を向けていると耳元で急に声かけられて思わず身体が条件反射で動いていた。

 モロに一撃を受けた金色小春はピクピクと身体を痙攣させながら倒れている。



 「大丈夫か小春?」

 「あ、ありがとうユウ君、私は平気よ・・・それにしても蔵リンったらマジね」

 「なっ何がや!?」

 「またまたとぼけちゃって」

 「べっ別にとぼけてなんか」

 「まあ、蔵リンの気持ちもわかるわ・・・けど、それってほんまに本気なん?」

 「?」

 「吊り橋効果的なヤツじゃないの?」




 吊り橋効果?

 小春に言われて考える。

 確かにこんな良く分からない世界で生と死を間近に感じさせられたらそんな事になるかもしれないが、だけどそれとは違う気がする。

 彼女に対して感じた気持ちは、別に自分の身に危険を感じてそれで救って貰ったからと言うわけではない。




 「アホな事言うでないで練習戻りや」

 「あんっもう、すぐそうやって誤魔化すんやから」

 「小春?練習戻り?」

 「はいっ!!ゆっユウ君いくでっ!!」

 「待ってや小春!!」




 薄っすらと寒くなるような笑顔を向けられて降参と手を上げた小春はすぐに一氏と共に急いでコートに戻っていった。

 それを見送りハァと溜息をつく。

 自分でも未だよくわかってない感情。

 誰かに弄られても答えようがないのだから仕方ない。



 モヤモヤした気持ちを晴らそうとコートに移動しようとしたその時、体育館の中から出て来る彼女の姿に胸がドクンッと音をたてた。

 コートへと向かおうとしていた足は自然とそちらへと向かう。



 「藤原さん」

 「あ、えっと・・・白石くん?」

 「せや、覚えてくれてたんやね、嬉しいわ」

 「え、あ、その・・・ごめんなさいまだちゃんと皆さんの名前が自信を持って言えなくて」




 申し訳なさそうに言われて少し落ち込むそんな彼女を見てまた『ああ、好きだな』と思ってしまう。

 自然と優しい気持ちになるのは彼女の出す雰囲気のせいか。



 「今から何処か行くん?」

 「えっと・・・図書室に」

 「え?一人で?」

 「う、うん」

 「アカンッ!」

 「!?」

 「あ、ごめん大きい声だして、けどアカンよ。いくらセーフな時間とは言え、もしもがあるかもしれんのやから・・・もうちょい後・・・いや、ちょい待っててくれるかな?俺が付き添うわ」

 「ええ!?いいです、白石君練習中なんですよね?私のことで邪魔できない」

 「邪魔ちゃうよ、気にせんで?んじゃ待っててな」

 「あ、白石君、本当にいいから」



 後ろから聞こえる彼女の声を聞こえないフリしてコートへと急ぐ。

 練習が終わるまでなんて待たせられない。

 そうすればきっと誰かが彼女を助けてるに違いない。



 彼女を取り巻く環境はここ数日でかなり変わった。

 心境の変化、それが目まぐるしく起こっている。

 だけど、何かが起こって変わってしまった人間に、正直な気持ち彼女に近づいて欲しくないと思う自分がいる。



 結局、自分だってココに来なければこんな事思わなかったに違いなのに、それでもまだ自分の気持ちが純粋だと思ってしまう身勝手な気持ちがある。




 コートの指示を小石川に任せてすぐに戻る。

 彼女は困惑気味に待っていてくれた。

 申し訳なさそうにしている彼女を連れて図書室へと移動する。



 誰もいない校舎内はとても静かだった。

 時間外だとあれ程冷たい冷気とおぞましい声が響く場所だとは思えないくらい。


 古い分校のような学校、ガラガラと木造の引き戸を開けて中に入る。

 彼女はこちらの事を考えて少し急いで本を探している。




 「えっと・・藤原さん、その・・・なんか読みたい本でもあったん?なんか、急いでたみたいやけど」

 「え?あ、その・・・面白いって勧めてもらった本があって・・・その、続きが早く読みたくて・・」




 ああ、失敗した。

 頬を染めてそう言った彼女を見ると今した質問を取り消したくなる。

 胸がズキズキと痛む。

 誰に?なんて聞くのも馬鹿馬鹿しいくらいの質問。



 他者を悪く言うのは好きじゃない、だけど、言いたくなる。



 君を一度振った男だよ?と。

 泣いている彼女を気遣う事なく置いて言った男なのにと。





 「お待たせしてごめんなさい白石君」

 「え?あ、もう見つけたん?」

 「はい、それと・・・コレ」

 「これは?」




 ポンッと差し出されたのは一冊の本。

 植物の色々な特性の書かれた本で、それは一度読んで見たいと思っていた本。

 だけど、それを何で?と疑問に思う。



 「白石君、こう言うの好きだって前にえっと・・・財前君?に聞いた事があって」

 「へーそうなん・・・かっ!?は?財前?うちの財前!?」

 「はっはい」

 「なんで?なんで藤原さんアイツの事知って・・え?知り合いなん?」

 「まっ前に、励ましてくれた事があってそれからよく時間が空いたからって私の話相手してくれてて」

 「アイツ・・・・アイツ!?」

 「白石君?」



 本当に、自分がボーッとしてる間に日々変わっているのは事実だろう。

 こちらは自分の気持ちを確認するのもやっとだと言うのに。

 出遅れてる、そう思わされた。

 女子に興味がない財前、それが声をかけた?それだけでもどんな気まぐれだと言いたい位なのに、励まして更には暇を見つけたら話し相手、想像も出来ない。

 どう考えても財前が彼女を気に入ってるのは明白。



 「白石君?」

 「あ、堪忍。いやちょっと出し抜かれた気持ちになって燃えてたわ」

 「はい?」

 「いやいやこっちの話、そっか・・・なぁ藤原さん、今度話し相手してもらいに行ってもええかな?」

 「え!?」

 「アカン?他校やからさ、前から思ってはいたんやけど藤原さんは嫌かと思ってたから声かけられへんかってん」

 「そんな、私は全然」

 「そう?せやったらその時は宜しくな」

 「はっはい」



 今はこの約束でええ。

 本当は内心もの凄い焦ってるけれどそれを出すのは余りに格好悪すぎる。

 とりあえず、まずは仲良くなろう。

 それで自分と言う男を知って欲しい。




 「にしても財前・・・・戻ったら試合でもやろかな・・・・」



 To Be Continued
 

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