Tears

□第一話 事件
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 小学校の頃から片思いをしていた大好きな人、中学校に上がり同じ部のマネージャーの子とあっと言う間に仲良くなって二人は付き合い始めた。

 素敵な彼にピッタリな彼女さんは同じ同性から見ても可愛い子だった。

 一年のベストカップルに選ばれる位お似合いな二人を毎日近くで見ていると実感させられる。


 この恋は明確に報われないのだと。



 六年間思い続けたこの想いもいい加減諦めなければと毎日思うけど、彼を見るとそれが情けないけれど出来ない。

 未練がましいと自分でも思う、けれどなかなか決着がつけられない。


 それは秋から冬へと変わるそんな頃に突然起きた事件だった。



 練習が終わり、第一第二のコート整備と当番制の部活倉庫の掃除をした日。

 学園祭後と言うこともあり、かなり片付けに時間がかかってしまい時計を見れば最終下校時刻に近い時間。

 慌てて部室でシャワーを浴びて着替えをしていると、こんな時に限ってマネージャー日誌の提出を忘れてしまっていた事に気がついて慌てれば、まだ男子テニス部部室の電気がついている事に気がついてサッと血の気が引く。

 もしかして日誌の為に誰かを待たせているのかもと急いで着替えて部室に向かうと中から突然泣きながら女子が数人飛び出してきた。

 一体何事だと驚きながら部室の中を見れば、大好きな彼がいた。

 何で?よりにもよって彼を待たせてしまったのかと慌てて中へと入る。




 「すっすみません!日誌出し忘れました!!」



 思いっきり頭を下げる。

 だけど、返答がない為、怒らせたと思い泣きそうな気持ちで彼を見れば様子がおかしい。

 机に手を突いて具合が悪そうだった。



 「あっあの、幸村君?だっ大丈夫ですか?」

 「え?あ、藤原さんか………ッ……ハァハァ……日誌ならそこに出しッ」

 「危ないっ!」




 フラッと倒れそうになった幸村君を慌てて支えるが力がなくてそのまま床に倒れこむ。

 彼が直接床に身体をぶつける事から守れた事にホッとして顔を上げれば今までにないほど近距離に彼がいて心臓がドキンッと高鳴る。

 調子が悪そうな彼を前にして何をドキドキしてるんだと心の中で叱咤しながら幸村君に声をかけようとしたその時。




 「もぅ、駄目だッ……ゴメンッ」

 「え?ンッ!!??」




 重なる唇。

 一瞬何が起こっているのか頭が真っ白になる。

 幸村君の手が私の制服を乱暴に脱がしていく。

 頭の中はパニック状態。

 だけど、何をどうする事も出来なかった。






 どれくらい時間がたったのだろか、気がつくと部室の窓から見える外は真っ暗。

 ボーッとする視線を彷徨わせて見つけた時計は22時を指していた。

 それを見てハッと意識がハッキリとする。

 慌てて身体を起こそうとすればズキンッとした痛みが下肢に走り思わず呻く。

 それでも何とか身体を起こせば何も着ていない格好。

 脱ぎ捨てられたそれを着ようと横を見て思わず悲鳴を上げそうになるのを必死で止めた。

 自分と同じように裸で寝ている幸村君。

 ココで何があったのか改めて理解して血の気が引く。



 行為の最中に少しだけ聞けたのはファンの女子が用意してあったドリンクに何かを入れていたらしいという事。

 それで幸村君がおかしくなったのだと言う事。


 薬のせいかグッスリと眠っている幸村君をそのままにしておけなくて必死に着替えだけさせて私は鞄の中から自分の携帯を取り出す。

 こんな時に相談できる友人は悲しいかないない。

 だけど、このままなのは駄目だと一度も自分からかけた事がない番号を選び鳴らす。



 「もしもし柳君ですか?」





 連絡を入れてから数十分後、慌てた様子で走って部室に駆けつけてくれた柳君は私達を見てホッとしたように息をついた。

 幸村君が具合が悪くなって倒れて、それを庇おうとして失敗して意識を失っていたと説明すると柳君は心配そうに幸村君に声をかけるが返答がない。

 脈などを確認して寝ているだけとわかると本当にホッとしたようだった。



 「精市の親からまだ戻っていないと心配する電話が来て、伊藤といるものとばかり思っていたから家にいると誤魔化していたのだが」

 「ごめんなさい」

 「藤原は悪くないだろう………それよりも、平気か?」

 「え?あ、はい私は」

 「無理はよくない……ちょっと待っていろ」




 そう言って柳君は何処かに連絡すると暫くして走ってきたらしい仁王君が現れる。



 「悪いな仁王こんな時間に」

 「別にええが、幸村は平気なんか?」

 「ああ、問題なさそうだ。俺は精市を抱えて取り合えず家に連れて帰る、精市の親に嘘をついてしまったからな」

 「そうか」

 「仁王は悪いが、藤原を送ってやってほしい」

 「ええよ」

 「えっ!?そんな私は平気です!」

 「こんな時間だ、それはさせられない」

 「じゃな、行くぜよ?」

 「あっはい」




 幸村君の荷物を持って幸村君を軽々背負って帰る柳君は流石だなぁと関心しながら荷物を持って私と仁王君も部室を後にした。。



 だけど、痛みは一向に治まらず暫く歩いた所で蹲る。

 これ以上は今は動けそうにない。

 最悪タクシーで帰ることを考えるくらい痛む。



 「おい、平気か?……藤原、お前さん本当に幸村を庇って意識を失ったんか?」

 「え?」



 真剣な顔で仁王君に問われて思わずその視線から逃れるように視線を逸らす。

 その行為が嘘をついていると肯定していると思われたとしても、何もかもを見透かすような彼の目をそれ以上みていられなかった。


 「部室に入った時におかしいと思ったんじゃ、お前さんの座ってた辺りに血がついとった、お前さん参謀にバレんように慌てて拭いてたようじゃが」

 「……」

 「何があったんじゃ?」

 「別に、キャッ!?にっ仁王君!?」

 「暴れなさんな、動けんのじゃろ?」

 「やっでも、そのッタッタクシーとか」

 「そんなの金の無駄じゃ」




 そう言って私をおんぶしたまま仁王君は歩き出した。

 その背中のぬくもりが温かくて何だか涙が出る。

 それでも、あった事を話す事は出来なかった。
 


 「こんな時間じゃ、親御さんに挨拶したほうがええか?」

 「ううん、大丈夫。どうせ両親ともに家にはいないから」

 「は?」

 「そのっ……両親が不仲で家にあんまり寄り付かないから」

 「それじゃあ、お前さん今帰っても一人なんか?」

 「そう、だね。でも大丈夫。仁王君ここまでありがとう。重かったでしょ?ごめんなさい」

 「別に重くはなかったが………身体平気なんか?」

 「大丈夫」

 「………ほうか」

 「うん、ありがとう」

 「気にせんでええよ、それじゃあ気をつけんしゃい」

 「ありがとう。仁王君も帰り気をつけて」

 「おう」


 一度手を振り帰っていた仁王君を見送り、私は自宅マンションの中に入った。

 エレベーターの中、本の僅かな揺れでも身体が痛む。

 フラフラしながら何とか鍵を開けて中に入れば室内は静かだ。


 それも当然。

 仁王君にはああ言ったが、ここには自分しか住んではいない。

 両親は不仲で互いに愛人と別の生活をスタートさせている。

 父親に至ってたは愛人との間に子供までいる。

 社会的地位なんてものの為に仮想夫婦を演じている両親。

 毎月二人から支払われる生活費は中学一年生が貰うには余りに大きな金額。

 今の生活に私が入り込む事を拒んでいる。

 だから、文句や不満を言わせないようにお金を与えているような親。

 寂しいなんて感情はとうに消えてしまった。



 だけど、今は、そんな環境がありがたい。

 ズルズルと寝室のベットに倒れこむ。

 身体が痛い。

 だけど、心がもっと痛かった。



 『好だよ………絵里』



 涙腺が壊れたように涙は後から後から零れ落ちる。

 大好きな人と交わった。

 だけど、それは余りに非情な現実をハッキリと傷として自分の中に残した。

 初体験が初恋の人、それは本当なら嬉しい筈の事なのに。

 触れられた感覚、感じた熱は未だ身体が覚えているのに。

 涙は一向に止まる事はなかった。

 To Be Continued
 

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