Tears
□第二話 懺悔
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あの事件の翌日、体調が悪く学校には休む連絡をいれた。
こんな時、不仲な両親、世間的には問題のある親で本当に良かったと生まれて初めて思った。
連絡なんて一ヶ月に一度来れば良いくらいだ。
だけど、そんな両親だからこそ、休む理由を追求される心配がないことにホッとする。
部長にも休む連絡はしてあるから問題ないとベットに転がる。
天井を見ながらそっと手を目に当てる。
昨日遅くまで泣いたせいか目が腫れている。
何とか明日には腫れが引くといいなぁと思いながら目を閉じる。
夕方には新しい制服が届く。
それまではゆっくりとしようと二度寝を決めた。
幸村精市視点
目が覚めると自室の天井ではないソレに違和感を感じた。
ゆっくりと身体を起こせば気だるさと少し頭痛を感じる。
ココは一体何処だろ?
そう思ったがすぐにココが何処だかわかった。
何度か来た事がある友人の部屋。
だけど、何で自分はココに?
そう思って眠る前の事を思い出す。
部長に任命すると部長に言われて気持ちが高ぶった。
だから部活動時間ギリギリまで一人で残って練習していた。
付き合い出したばかりの彼女でマネージャーでもある伊藤絵里は、そんな自分に付き合って残ると言ってくれたが、帰宅が遅くなると彼女の両親が心配すると思い申し出を断り先に帰って貰った。
休憩する時に使ってと用意してくれたタオルとドリング凄く嬉しかった。
これで頑張れると練習に励んだ。
それで、休憩する事なく練習を終えた後、用意されたドリンクを飲んで止まる。
何時もと味が違う。
何となく甘いそのドリンク。
彼女が分量を間違えるなんてことはまずない、ならば何故と思った時、急にクラッとした。
思わず目の前にあったテーブルに手をついた。
動機が早くなる。
ドクドクと脈打つ感じに訳がわからないでいると聞こえた声。
「誰かいるかい?」
そう声をかければ数人の女子が入って来る。
関係者以外はフェンス内には入れない筈。
入ってきた女子は部の関係者ではない。
毎日、飽きませずにキャーキャーと煩い程大きな声で騒いでいる女子達だった。
そんな彼女達が何故?と思っていると一人が制服のボタンを外しながら近づいてくる。
「薬効いてきたかな?」
「え?」
「幸村君、私のこと好きにしていいよ」
そう言ってシャツを脱いで見せてくる。
何を言ってるんだと呆れたけど、次の瞬間その胸を見て身体が反応して慌てて視線を逸らす。
なんで、どうして?と考えて不意に思い出す彼女達の言葉。
『薬は効いてきたかな?』
薬?何の?
だけど、それを冷静に考えている余裕がなくて、必死に平静を装う。
「何の話かな?このドリンクの事を言ってるならまだ飲んでないけど?」
「嘘っ!?だってさっき!」
「飲もうとしてやめたけど?」
「そんなっ!?」
「ココは関係者以外は立ち入り禁止だ、さっさと出て行ってくれないかな?」
「あっ、そっその」
「そんな格好して恥ずかしくないの?正直、気分が悪いんだけど」
そう言うと乱した格好のまま彼女達は部室から飛び出して行った。
人がいなくなってホッとしたのも束の間。
自分を襲う異常事態は何の解決もされてなくて。
薬ってなんだと焦っていると再び開く扉。
せめて蓮二達ならと思ったけれど、現れたのはまたも女子。
高いその声と、シャワーの後のだろうシャンプーの匂いにクラクラした。
そこから記憶が曖昧だ。
自分はどうなった?
「目が覚めたか精市」
「蓮二……俺は……」
「覚えてないのか?」
「あまり、説明してもらっていいかな?」
「ああ、昨日の放課後に一人で居残り練習をしていた事は覚えているか?」
「そこは覚えている」
「そうか、なら部室の中で具合が悪くなったのは覚えがあるか?」
「曖昧……だね」
「そうか、俺も聞いた話だから詳しくはわからないんだが、具合が悪くなって倒れたらしい」
「倒れた?」
「たまたま出し忘れた日誌を届けにきた藤原が倒れ掛かった精市を助けたらしい」
そう最後に見たのは確かにうちのマネージャーの一人、藤原さんだった。
「藤原は上手く助けられなくて頭を打って意識を失ったそうだ」
「えっ!?藤原さんは大丈夫だったのかい!?」
「ああ、問題ないようだったし本人も平気だと言っていた。念の為今日は病院に行くように言ってあるから朝練には来ないかもしれないが」
「俺のせいでッ」
「気にするな、藤原もそう言っていた」
それを聞いてホッとしたが、だけどどうにも納得いかない。
今の話では具合が悪くなって倒れた事になっている。
だけど、確かにクラクラはした。
異常も感じていた。
だけど、それは決して倒れるとかそう言った体調不良ではなかった。
むしろ。
『痛ッ……ゆきむら……くっ……アッ』
不意に思い出した断片。
思わず口元に手をやり絶句する。
思い出した。
そう自分はとんでもない事を彼女にした。
それは、決して取り返しのつかない事。
「精市?どうした?まだ具合が悪いのか?顔色が」
「蓮二、どうしようッ……俺はッ……なんてことッ」
「精市?」
手で肩の後ろに触れればギクッと身体がする。
ピリピリ痛むそこには生々しい程ハッキリとした傷がある。
困惑していた顔を思い出す。
涙を流す彼女の顔を。
血の気が引く。
「蓮二、藤原さんの家知ってるかい!?」
「あ、ああ。知ってはいるが精市どうした?説明してほしい」
「俺も自分でもどう説明したらいいかッ、けど、俺は取り返しのつかないことを彼女してしまったッ」
そして、覚えている限りの昨日の事を蓮二に伝えた。
俺同様に蓮二も話を聞いて顔色を悪くする。
そして何かを考えていた蓮二が言い辛そうに口を開く。
「藤原が座っていた辺りに血痕のようなものを見た気がした、見直した時にはなかったから気のせいかと思ったのだが」
「それッ」
「俺も一緒に行こう」
「蓮二」
「大丈夫だ」
ポンッと叩かれた肩、けれどそれが少し気持ちを楽にさせてくれた。
震える彼女に酷い行為をした。
俺はなんと謝罪をしたらいいのかどんなに考えても良い答えは見つけられなかった。
To Be Continued