Tears

□第三話 謝罪
1ページ/1ページ



 室内に響いた呼び鈴の音に意識が戻る。

 ゆっくりと身体を起こせば時計が目に入り時間は新しい制服が届く時間だった。

 宅配便の人だと思い慌ててソファから降りてインターフォンに出る。



 「はい!」

 『ッ……あの、藤原さん、幸村だけど話があって来たんだ。少し会って話せないかな?』

 「なっなんでッ、あっあの、そのっ」



 てっきり宅配便の人だと思っていたのに、インターフォンに出たのは思いもよらない人で私は慌てる。

 何で?どうして?をくり返す。

 今はまだ部活時間だ。




 『顔みたくないなら電話でもいい、話がしたいんだ』

 「そんなっ!?あ、あの、今開けます!」



 辛そうなその声に慌ててそう返し下のロックを解除する。

 彼がココに来る、そう思うと心が落ち着かない。

 普段から整理してて本当に良かったと思いながらとりあえず急いで着替える。

 鏡で顔を確認して朝よりましになった目にホッとした。

 暫くして玄関の呼び鈴がなり鍵を開ける。

 そこには学校からそのまま来たのだろう幸村君と柳君がいた。



 「どっどうぞ」

 「お邪魔します」



 この家に幸村君が来る日なんて絶対にないと思っていただけに自分の家なのに緊張した。


 テーブル席に二人が座り対面するように私も座る。

 用意した紅茶と、食べようと思って作ったケーキを差し出す。

 室内はとても静かだった。

 一体何の話だろうと考えてハッとする。

 そして思う。

 そんなの1つしかない。

 昨日のことだ。

 馬鹿みたに浮かれて、私は本当に駄目だど苦笑する。




 「藤原さん、昨日の事、本当にすまない!」

 「ええ!?あっあの、ゆっ幸村君!いいんです!誤らないで下さい!!」

 「そんな訳にはいかないよ、俺は君に酷い事をした」

 「そんなっ!あれは、事故みたいなものだから、そのっ幸村君は悪くないです!」

 「事故じゃない、俺はッ……君をレイプしたんだッ」




 その言葉を言われて思わず黙る。

 席を立ちガバッと頭を下げた幸村君に言葉を失う。

 握り締められている拳が震えている。

 そんな幸村君の姿を見たら自分を恥ずかしく感じた。

 襲ってしまったと心から悔やむ彼、だけど当の本人は襲われたとは思ってはいない。

 驚きはした、だけど不快ではなくむしろ、一瞬でも喜びを感じた。

 薬を盛った女子達と自分は変わらない気がした。

 途端にポロポロと涙が出た。



 「藤原さん!?」

 「藤原!?」

 「ごめんッごめんなさいッ、私ッ……私ッ」

 「誤るのは俺だよ、本当にごめんッ。こんなに君を傷つけてごめんっ!」

 「違うッ……私ッ」




 それ以上言葉にする事が出来なかった。

 ただ、罪悪感を感じている幸村君に足して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 どうして自分はこんな嫌な人間なんだろうかと嫌気がさす。



 「私は大丈夫なんです、だから、幸村君も忘れて下さい」

 「そんなッ」

 「アレは事故です、それ以上でもそれ以下でもない。なりようがないんですッ」

 「藤原さん……」 

 「だから、忘れて下さいッ……ごめんさないッ」



 そう、あれは夢だ。

 あんなこと忘れなければならない。

 これ以上、幸村君を傷つけたくない。

 苦しめたくない。



 何より、自分の身勝手で醜い感情を知られたくない。



 こんな時まで自己保守する愚かな自分に吐き気を感じた。


 有り得ない夢を叶えて貰った、それでもう十分だ。

 これ以上はもう駄目。



 「私も忘れるから、幸村君も忘れて下さい。お願いしますッ」



 そう言って頭を下げれば暫く色々言ってくれた幸村君も最後にはわかったと言ってくれた。

 体調もう平気だと言う事を説明すれば柳君もホッとしたようだった。

 二人とも優しい。

 最後に見かけた女子の特徴を伝えて二人は帰宅していった。



 一人残された部屋の中、また涙を流す。

 幸村君の座っていた場所に座りそっとテーブルに伏せる。

 この気持ちにコレで蹴りをつけようとそう決めた。





 幸村精市視点






 「蓮二、俺……絵里と別れるよ」

 「本気か?」

 「ああ」

 「藤原の事を気にしてか?」

 「違うとは言わない、それが理由ではあるから」

 「気にするなと言ってくれたぞ」

 「言ってくれたね、だけど、はいそうですかとは出来ないよ」

 「………」

 「俺の油断とミスが起こした事だからね、このまま何もナシには出来ない」

 「精市」

 「彼女の鳴き声と顔が頭から離れないんだ」




 目を閉じれば思い出すのは辛そうに自分を見つめる彼女の顔。

 酷い事をされているのに、彼女の自分を呼ぶ声は優しく感じたのは都合の良いように記憶しているからかもしれない。


 泣きながら、それでも笑って彼女は平気だと、大丈夫だと口にした。

 それがどれだけの思いから発せられた言葉なのかは想像も出来ない。




 「自分勝手だとは重々承知しているけど、今は一人で気持ちの整理がしたいんだ」

 「………そうか」

 「蓮二、ありがとう。いてくれて心強かったよ」

 「親友だからな、当然だ」

 「ありがとう」




 それから蓮二と別れて一人になって考える。

 自宅近くにある公園のベンチに座って息を吐き空を見上げる。

 たった一日で全てが変わるなんてことが本当にあるんだなと思った。

 両手で顔を覆う。



 「ごめんッ………絵里ッ」



 今はそれしか言葉がなかった。

 思い出すのは愛しい彼女の笑顔。

 この先もずっと一緒にいたいとそう思っていたのに。

 流れ落ちる涙。

 自分にはそんな資格なんてないのに涙は暫く止まらなかった。


 To Be Continued

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ