Tears

□第四話 崩壊
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 人間の身体は不思議なものであれだけ痛みを感じていたのが嘘のように一日安静にしていれば翌日には嘘のように痛みが引いていた。

 それを少し切なく感じて、思わず首を振りその考えを消す。

 そう傷は癒えて消える、想いもきっと同じだ。


 届いた新しい制服に身をつつみ深呼吸する。

 この制服同様に全てを何もなかった事から始める。

 それが傷つけてしまった彼にしてあげるられる私の唯一のこと。


 鞄を持って自宅マンションを出る。

 今日の天気は快晴。

 よし、頑張ろうと決めて学校へと向かった。

 何時もと同じ時間。

 まだ登校している生徒達が少ない中一番に部室の鍵を開ける。

 手早く着替えをして何時も通りコートのネット張りを始める。



 何もしないでいるより全然良いと思った。

 動いていれば余計な事も考えないですむ。

 そうしていれば部員達がボチボチ登校してくる。



 ボールの用意をしている頃には準備運動を始めている。



 「皆おはよう」



 その声に一瞬身体が反応するけどそれを無視して作業を続ける。

 出来るだけ考えないように、見ないようにそれだけを繰り返し出来るだけコート外になる仕事を続けた。

 朝練が終わりネットなどを片付けていると不意に名前を呼ばれて振り返るとそこに幸村がいて思わず絶句する。



 「その、体調はどう?」

 「あ、その、見ての通りもう平気です」

 「そう、良かった」



 幸村がこうして個人的に話かける女子は少ない。

 だから彼女の仲原さん以外に話しかけている姿をそこにいる全員が驚いてみている位だ。

 また気をつかわせている、それがわかって辛くなる。


 「それじゃあ、私片付けがあるから」

 「あ、うん」



 出来るだけ急いでその場から離れた。

 誰かに誤解されないように。




 三年の女子5人が停学処分になりエスカレーター式の高等部の進学が不可能になった事はあっと言う間に校内に噂が広まった。

 それを出来るだけ考えないようにしながらボーッと外を見ていると今度は別の噂が広まった。


 幸村君と伊藤さんが別れた。


 それを聞いた瞬間に絶句した。

 それは有り得なかった。

 伊藤さんから告白して始まった関係ではあったけど、幸村君は誰が見ても彼女に惚れていた。

 それこそ先まで考えていそうなくらい真剣に交際していた筈。



 考えたくない、たまたまだと思いたい。

 だけど、そう思うにはあまりに時間が早かった。



 思わず教室から飛び出すが、ふと足が止まる。

 会って何を言えるというのだろうか。

 自分なんかの為に考え直せと?

 でも違う理由かもしれない。


 苦笑する、何時から自分が彼の行動に影響与えられる人間になったと言うのだろうか?



 噂は噂。

 また問題がないようにそんな風にしいるだけかもしれない。

 彼女を見つめる彼の顔とあの時の言葉を思い出して私は再び教室に戻った。



 昼休みになり、食欲がない為に持ってきたお弁当にも手を付けず中庭でボーッと花壇を見つめていた。

 心地よい穏やかな天気。



 「隣ええか?」

 「きゃっ!?にっ仁王君」

 「クククッ………その、体調はどうじゃ?」

 「え?あ……うん、もう平気だよ」

 「そうか」




 そっと隣に座った仁王君は紙パックのイチゴ牛乳をくれた。

 お礼を言いそれを受けり早速飲んでホッとした。


 「幸村とは話たんか?」

 「あ、うん。話したよ翌日に」

 「そうか………幸村の事、許せんか?」

 「ううん、あれは事故みたいなものだから。むしろ、日誌を出し忘れた私が悪いの。私が行かなければ、こんな事にはならなかったのにってずっと後悔してる」

 「それはッ……お前さんのせいじゃないじゃろ」

 「………ありがとう仁王君」




 やっぱり何かしら気が付いていたみたいで流石だと納得して苦笑した。

 あの事は部でも知られていない事だから、きっと柳君辺りに話を聞いたのだろう。

 小さくお礼を呟くとポンポンと優しく叩かれまた泣きたくなった。

 普段は自分から女子に近づくタイプではないくせに、こんな時は優しいんだなぁと言えば苦笑しながら肩を押された。


 「辛くなったら何時でも言いんしゃい、乗りかかった船じゃ、フォローする」

 「うん、ありがとう」

 「いや、そんじゃな」

 「うん」



 そう言って去っていく仁王君の背中を見送り流れ出た涙を袖で拭った。




 結局、気分は晴れる事なく放課後がやってくる。


 昼からずっと幸村君と仲村さんの話題で持ちきりだった校内。

 向かった部室でも同じマネ達がコソコソとその話をしていた。

 荷物をロッカーに入れて着替えをしている最中に入ってきた仲村さんの顔は、泣いたのだろう目が真っ赤に腫れていた。



 「絵里ッ!大丈夫?」

 「何があったの?」


 心配そうに駆け寄るマネ達、その気遣いに刺激されて再びその大きな瞳に涙を貯めて座り込む仲村さん。

 グスグスと泣きながら、突然別れを切り出されたと、意味がわからないと泣いていた。

 理由は自分が悪いとだけ言われただけでそれ以上は話してくれなかったと。


 それを聞いて胸がズキズキと痛んだ。

 やっぱり彼は自分が思っている以上に気にしてそして、傷ついていると思い知らされた。

 震える手で何とか着替えを済ませて、早々に部室から出た。


 自分の担当は暫くは洗濯やドリンク準備、部倉庫の整理や買出しとマネが一番やりたがらない仕事を希望した為にコートに近づく事は少ない。

 バタバタと仕事をしながら考えないようにしようとするのに考えてしまう。

 洗い終わった洗濯物を干しながら口から出るのは溜息ばかり。



 どうしてこんな事になったのだろうか?


 その疑問ばかりが頭の中をグルグルと回る。

 ヒラヒラと風に靡く洗濯物を見ながら、あの日に戻れるならと出来ないとわかっているのにそう考えずにはいられなかった。


 To Be Continued

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