Tears
□第五話 消去
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好きだから、ずっと見てきたからわかる、幸村君がまだ彼女の事を想っている事。
倉庫からボールを出してコートに運んでいる最中、チラッと癖で幸村君を見てしまう。
すると彼は仕事をしている彼女を密かに見つめていて。
その視線だけで彼の気持ちがわかってしまう。
別れた二人の出す微妙な雰囲気は部内でも皆が気をつかっている。
何時も辛そうに幸村君を見ている彼女が不憫でなんとも言えない気持ちになった。
自分の想いを告げられない自分とは違い、ハッキリと勇気を出して口にして幸村君と付き合った彼女。
あんな事が原因でそれが無くなってしまうなんて本当は許されない事。
この一週間何度もしようとして出来なかった事を、今日こそはと自分を叱咤した。
こんな事位でこの有様だ、告白なんてきっと一生できない。
だけど、これはきっと自分にしか出来ない事だと、自分に言い聞かせた。
あの日と同じ、倉庫整理を終えて最終下校時刻ギリギリに更衣室に戻って着替えを済ませた。
汗臭くないかとかそんな事を気にしながら待つ事数分、居残り練習を終えた幸村君達が現れた。
きっと私となんて話もしたくないかもしれないけれど。
「おっお疲れ様です」
「あっ・・・藤原さん」
「随分遅くまで残っていたんだな藤原」
「すみません、片付けに手間取ってしまって」
「いや、それでどうかしたのか?」
「えっと・・・・その、ちょっと・・・・幸村君に話があって」
「えっ?俺?」
「はい」
「・・・・わかった、二人とも悪いけど先に帰ってもらっていいかな?」
「・・・ああ」
何か話しをすることがあったのかもと今更になって気が付いてワタワタしていると、幸村君は真剣な顔で何処かに寄る?と聞いてきたから、私は近くの公園でと申し出た。
夏だからとは言え、この時間の外はもう暗い。
街灯に照らされる公園のベンチに座って私は話しは切り出した。
「私の思い違いかもしれないけれど、伊藤さんと別れてしまったのはあの事が原因ですか?」
「!?」
「もしも、私の事を気にしてとかなら、私は大丈夫なのでよりを戻されて下さい」
「藤原さん」
「幸村君も伊藤さんもまだ・・・二人は想い合ってるのに、あんな事なんかで駄目になるのは・・・違うと・・思うの」
「・・・・君は優しいね」
「え?」
「確かに、俺はあの事を気にして絵里と別れた。けど、それは君の事を気にしてないと言えば嘘になるけれど・・・何より、油断してあんな事をしてしまった自分が一番許せなくてね・・・それが絵里と別れた一番の理由なんだ」
「・・・・・」
「情けないけど、まだ未練がある。けれど、もう戻れない。それは分かるんだ」
「幸村君・・・」
「身勝手だけど、今はもうテニスのことをだけを考えるようにしてる。自分の目的でもある全国大会三連覇に向けて」
こんな風に二人きりで話す時がくるなんて思いもしなかった。
伊藤さんとの事を気にして話しかけた筈なのに、こんな時まで私は・・・。
「君は・・・・そのッ・・・好きな人とかいないのかい?」
「え?」
「もし、いるなら本当にすまない」
バッと頭を下げられると何とも言えない気持ちになる。
それは貴方です。
そう言えたらどれだけ良いだろう。
「好きな人なんていません」
「そう、なの?」
「はい、まだそう言うことに興味がないから。だから変に気を使わなくても大丈夫です」
「そっか」
そんな風にホッとした顔されると胸がスギンと痛む。
「引き留めてごめんなさい」
「ううん、心配してくれてありがとう」
そう言って彼と別れた。
未だに彼を苦しめている事実、だけどされた方である私がまったく気にしていないと彼が知ったらきっと軽蔑されるだろう。
気持ちにリセット機能があるのなら使いたい。
こんな時なのに自分の気持ちはドンドン彼への思いを募らせていくようだ。