幸せのカタチ
□第五話
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「なんて顔してテニスしてんのよ」
これが俺に優美が言った初めての言葉だった。
周囲からかけられる期待と完璧を目指す自分のプライド、自ら望んでこの場所にいる筈なのに、気持ちは無意識に焦り空回りイライラする。
気晴らしになればだとただ夢中で壁打ちをしていた時、突然後ろから声をかけられて振り返れば自分とたいして変わらない年代だろう女がいた。
「あーん?お前に関係ないだろ?」
「・・・・・必死な顔してる、そんな思いつめた顔してプレーしたって何も身に付かないわよ?」
「っ・・・・お前に、今あったばかりのお前に言われる事じゃねーな!!」
無視すれば良かった筈なのに、イライラしていたせいか声を荒げて返答してしまった。
気が付いた時にはもう止められなかった。
「だね、確かに私にはあんたの事わかんないわ・・・・・ねえ、良かったら相手してくんない?」
「あーん?」
「私もさ・・・・・ちょっと許容範囲超えた問題に直面してて・・・・柄にもなく・・・・落ち込んでんのよ」
「そんな事俺様が知るか」
「いいじゃん・・・・・なんか抱えてる者どうしやろうよ・・・・一人でやるよりは気がまぎれるよ」
「・・・・・後悔すんなよ?」
気持ちを晴らす為にその無謀とも言える申し出を受けてやった。
相手が女だからって手加減なんてするつもりもなく、早く終わらせてやると気持ちの憂さ晴らしに利用してやると、最初はその程度の気持ちで始めた筈だった。
「・・・・・・てめっ・・・・・何者だっ」
「・・・・・・」
数十分後、コートに膝を付き荒い呼吸を繰り返しているのは俺で、方や相手の女は無表情に平然とそこに立っていた。
何が起こったのかわからなかった。
どんなに強く打っても返球してきて際どいコースを狙ってもアッサリと返され、気がつくと走らされているのは俺の方だった。
結果は惨敗。
「あはははは・・・・なんだコレ・・・・・ッ・・・・・」
「てめ・・・・・何泣いて・・・・」
「こんなの望んでないっ・・・・・なんで・・・・・なんで私はココに・・・・・っ」
無表情で立っていた女はそんな事を言うと途端に我慢していたものを吐き出すように泣き出した。
コートに座り込み持っていたラケットを落としただ声をあげて泣いていた。
そんな女を見ていたら、つられたように俺の瞳からも涙が出ていて。
そっと女の傍に行きその小さな身体を抱きしめると、一瞬身体がビクッと跳ねた。