Game
□参ノ弐
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柳との事情の後、優美が目を覚ましたのは10時になろうとする時間だった。
人の気配を感じで目をゆっくりと開くと傍らで目を閉じている幸村の姿があった。
あ、これは夢だと思いそっとその頬に手を伸ばすと幸村の瞳がゆっくりと開きこちらを見た。
「気がついた藤原さん?」
心配そうな幸村の顔を見て漸くこれが夢ではなく現実だと気がつきハッとその手を引っ込める。
慌てて身体を起こそうとするとクラッと意識が遠のきそうになる。
倒れそうな身体慌てて幸村が支える。
「大丈夫!?」
「あ、ごめ」
「謝らないでくれ、君が悪い事なんて何もないんだから、だから謝らないでッ」
聞いているうちこちらまで辛くなる様なそんな苦しそうな声に優美は口をつむぐ。
まるで自分のことのように辛そうにしてくれている、きっと今だって心配して傍にいてくれたのだとわかる、だからこそ優美はそっと息を吸うと笑顔で幸村を見る。
「私は平気です、それより柳君は大丈夫でしたか?」
「君は………、君のおかけで蓮二は無事に回復したよ」
「良かった」
心からの言葉だとわかる程ホッとした優美の様子に幸村は苦笑してしまう。
こんな時でも自分の事よりも他人を気遣える優しさに純粋に感心する。
今でもこんなにフラフラしている優美に幸村は先程知ったホワイトのリスクを教えなければならないことがとても辛かった。
時計を見ればそれほど時間はない。
「藤原さん、君に伝えないといけない事があるんだ」
「はい」
「えっと……その、君が眠っている間にわかったことがあって」
「わかったこと?」
「ああ、ホワイトについてなんだけど」
「はい」
幸村は辛そうな顔でゆっくりと先程した事を優美に話す。
話を聞いている優美の顔からドンドン色が消えていく。
唖然としてジッと下を見つめる。
数倍の痛覚なんて想像もつかない。
だけど、痛みを我慢していた柳の様子からそれが大変な事なのは理解できた。
「0時……そっかぁ……ッ」
「傍にいるから」
「ほぇっ!?」
「その時間、俺は最後まで君の傍にいるから」
「!!」
「それ位しか出来なくて本当にすまないッ」
先程まで感じていた恐怖心だけど、幸村の言葉で幾分気持ちが楽になる。
確かに迫る時間は怖い、それでもこうして一緒にいられる時間が増えるならと優美は気持ちを落ち着かせる。
どんな状況になるのかわからないからと場所は皆がいる体育館から一番遠い図書室へと場所が移された。
化物達を退けたどり着いた図書室の中、跡部と白石に手塚と木手は外で待機、図書室の中では左手を幸村が握り、右手は柳がしっかりと握っていた。
0時まで後5分と言う時間。
「何だかとても贅沢ですね」
「えっ?」
「立海の人気者のお二人にこうして手を握ってもらえるなんて、ファンの子達に知られたら私の明日はないです」
「クククッそんなことはないさ、なぁ精市」
「クスクスそうだね、もしファンの子達に何か言われても俺達が守るよ」
「うわぁ、そんな事になったら私の一生分の幸運使っちゃってます」
「クスクス大げさだよ」
「そうだぞ藤原」
「そんなこと無いですよ」
出来るだけ時間を気にしないように、悪い事を考えないようにと笑いながら話をした。
握られている小さな手はカタカタと震えている事に握っている二人はもちろん気がついているが、それでも優美が笑うから二人は気づかないフリをして笑う。
時計の針が進む音がやけに大きく感じながら。
時間まであと1分、優美は幸村に頼み口にタオルを咥えて後ろでギュッとキツク結んでもらう。
もしもの為にそなえて。
カタカタと震えるその小さな身体を柳は堪らず抱きしめる。
「!?」
「すまないッ!俺のせいで、本当にッ」
「蓮二……」
「変われるものなら変わってやりたいッ」
辛そうにそう言う柳に優美はゆっくりと首を振る。
気にしないでと優しく微笑む優美に柳は小さく謝罪をした。
ゆっくりと時計の針が0時になった瞬間だった。
「!?」
「藤原さん!!!」
優美の身体がビクッと大きく震えたと思うと急に力を失ったように後ろに倒れる。
気絶していた。
だけど、次の瞬間にはカッと目を見開き悲鳴を上げる。
全身に血管浮かび上がる程身体は弓なりになる。
バタバタと動く優美がこれ以上傷つかないように必死で暴れる優美を抑えるが、余程の痛みなのか何度も失神しては暴れる優美に幸村は思わず外にいる跡部達を中へと呼ぶ。
「足を押さえてくれっ!!」
幸村の焦った様な声に最初は唖然としていた跡部達だが優美の悲鳴にハッと我に返り暴れる身体を抑える。
胸元の痣がゆっくりと浮かび上がる。
「こんなッ!?何でこんなに時間がかかるんだよッ!」
思わずそう悪態つくほどその痣が出来るあがる時間は遅かった。
全員で優美に呼びかける。
見ていられない程、それはあまりに酷い状況だった。
時間にして2時間弱、漸く花弁の痣が出来上がると優美はガクッと糸が切れた人形のように何十回目の意識を手放した。
漸く動かなくなった優美に全員が肩から力を抜いた。
「柳の負傷レベルが2でコレかよ……」
「治療が遅れるだけで痣が出来上がる時間もかかると言うことなのだろうな」
「これ以上とかコイツがもたねーだろ」
「跡部達は体育館に戻ってくれていい、俺はこのままここにいる」
「本気か?」
「これ以上彼女に負担はかけたくないからね、そばについてあげたいんだ」
「まあ、藤原さんにはそれがええかもしんな」
「蓮二も今日は疲れただろう?体育館でゆっくり休んでくれ」
「………わかった」
そして安全エリアの図書室で二人きりになると幸村は我慢していた涙を流す。
抱きしめたら壊れてしまいそうな程小さな身体は激痛に本当に壊れてしまいそうだった。
優美に握られた手からは短く切られていたとは言え爪が刺さりそこから血が流れ出ている。
それを無視して幸村は汗で張り付いた優美の髪を優しくなでる。
「ごめんッ、本当にごめんねッ」
流れ出した涙は暫く止まることはなかった。
To Be Continued