幸せのカタチ
□第一話
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それからの展開は速かった。
あっと言う間に勝負は終了し、少年はコートに倒れて必死に呼吸していた。
私は先程立った位置を一度も移動していない。
「現状に逆上せてるから今の君じゃあそこまでだよ。さてと、約束は守ってよクソガキ」
ボールとラケットを鞄の中に入れて少女の下にいくと、少女は試合をみて興奮したように駆け寄ってきた。
「凄い!!凄いおねえちゃん!!!」
「クスクス、ありがとう」
「私感動したよ!!お姉ちゃん女の人なのに凄い上手だった!!お兄ちゃんみたい!」
「べた褒めだなぁ・・・それより、もう大丈夫?」
「・・・うん!」
「今度はちゃんと見分けるんだよ?」
「・・・」
「相手の目を見て、ちゃんと自分を見ているか・・・それを見分けられないとまた変なのに引っかかるからね」
「はい!!」
「うん、いい返事。それじゃあね」
「待って!お姉ちゃん!!お名前は?」
「優美・・・藤原優美」
「私は・・・幸村亜美です」
「バイバイ、亜美ちゃん」
緊急事態です。
平然と、そうドラマのように爽やかに挨拶したけど、私はそこから全速力で逃げました。
聞こえてしまったその名前、いや名前と言うよりは苗字。
マズイ、非常にまずい。
今までこの世界に来てから、ひっそりほっそりと目立たないように暮らしていたのに、ここにきてこんなハプニングに遭遇しようとは・・・。
どうか、あの無邪気な天使のような少女が私の名前を忘れてくれますようにと願わずにはいられなかった。