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□そして、
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ノックする音が執務室に響いたので、書類から顔をあげた。
入ってきたメイドは俺に紅茶を淹れて差し出してくる。

「ありがとう」

にこりと笑ったそのメイドは、一年ほど前からここで働いている。
気立てのいい女の子で、邪なところがない素直な子で、仕事もきちんとこなす。
それなのに、いつも俺は鳴と比べて心のどこかでガッカリしている最低なやつだ。

「沢田さまはいつも紅茶を飲みますよね。コーヒー、お嫌いなんですか?」
「そうじゃないんだけど、鳴が…」

そう口に出してから、しまったと手で口をおさえた。
彼女はにこりと微笑んだ。

「大丈夫ですよ、沢田さま。鳴さまのことは守護者の方や、使用人仲間に聞いたことがあるんです。…確か、私の前に使用人をつとめていらっしゃったんでしょう?すごく素敵な方なんだと伺っています」
「素敵な方…ね…。俺がコーヒー飲まない理由って鳴にあるんだけどね…」

キョトンとして俺を見ると彼女はそうなんですか?と不思議そうにする。

「最後に睡眠薬を盛られて…言いたいことも言えなかったんだ。だから、もう一度鳴に普通のコーヒー淹れてもらうまではコーヒー断ちしようって決めたんだ」
「そうだったんですか…早くまたコーヒーをお飲みになれるといいですね」

そう言うとメイドは一言断りをいれてから部屋を出ていった。
入れ換わるように部屋に入ってきた男は近くのソファにどさっと座った。

「あのメイド…いい女だよな」
「メイドには手、出すなよ。面倒なことになるからな」
「お前が言うな。メイドの鳴に手出してたくせに。それに心配しなくてもあのメイドには愛人の誘いを断られてる」
「そうなんだ」
「…つーより、幹部フロアのメイドの採用基準が俺の誘いを断る、だからな」
「なんつー基準だよ」

そうは言っても、分かりやすい基準だ。
幹部に下心ありありなやつは避けたいからな。

「あれから、もう1年か…」

一人言のようにリボーンが呟き、俺は先程の紅茶にもう一度口をつけた。
鳴が出ていってから、1年。
早いようで長い1年だった。

あの時睡眠薬を盛られた俺が目を覚ましたときには鳴はもういなかった。
それどころか、痕跡もきれいさっぱり消えていた。
只の一般人にボンゴレから完全に逃れることなんて普通に考えて無理だから、鳴は本当はスパイだったのかなんて思いがちらついたこともあったけど、俺には鳴の笑顔とか涙とか言葉とか…そういうもののすべてが嘘だったとは思えなかった。

「フツーはさ…待たせるのって男の方だよな…なんかなぁ…」
「鳴らしいじゃねーか」
「本当男らしいよな、あいつ」

まぁそういうところにも惹かれたわけだけど。
なんて思って伸びをすると、リボーンが俺に向かって何かを投げて寄越す。
難なくキャッチしたそれは封筒だった。

「何これ」
「招待状だ」






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