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□傍に、
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部屋に入ってベッドサイドに並んで腰掛ける。



私の取った部屋はただの安いシングルだから、他に場所もない。



話すとは言ったものの、一体何から話せばいいんだろう。



ふうと一息吐いてから覚悟を決めて話し始める。



『うちのお母さん、実は結婚してないんです』



ちらりと盗み見たツナさんは驚いているようだ。



『私が小さい頃はお母さんとお父さん、お兄ちゃんそれから私の4人で一緒に暮らしていました。私とお兄ちゃんはお母さんとお父さんの子どもで血の繋がりもあります。籍を入れてないだけで家族同然に暮らしていました。…その頃の私は両親が結婚してないなんてそんなこと知りませんでしたけど優しいお父さんが、家族が大好きで幸せでした』



そこで一度大きく息を吐き出す。



話してるとなんだか気持ちが昂ってくるから落ち着きたかった。



『お母さんは本当に普通の人なんですけど、お父さんが私もよく知らないんですがいいところの出みたいで…。それで両親は結婚を反対されたんです。それで半ば駆け落ちみたいになってたらしくて…。そこで結婚してもよかったんでしょうけど、ちゃんと認めてもらいたいからって、許してもらえるまでは籍はいれないでおくことになったらしいんです。だけどある日父方の祖父が急に亡くなって、後継ぎはお父さんしかいなかったからとお父さんは後を継ぐことを余儀なくされました。勿論周囲に私たちは良く見られるわけもなくて、私たちは別々に暮らすことになったんです。それでもお父さんはたまに会いに来てくれていました。でも、それから数年が経った時…』



そこで言葉を切る。



目を伏せずにいられなかった。



『お父さんが、結婚しました。お母さんではない人と』



「それって…」



『私たちじゃ、お父さんの周りにいる人たちには認められない。でもお父さんには後継ぎが必要だから、です』



「…お父さんは望んでしたの?」



『それはわかりません。私はまだ小さかったけど、夜中に目を覚ましてたまたまお母さんが泣いているのを見ました。いつも気丈なお母さんが泣いてるのをその時はじめて見たんです。すごくショックで…。私は両親に何があったかいまいち理解していなかったけれど、原因はお父さんにあるということはなんとなくわかっていて…。その頃からお父さんに対しての信頼が私の中で揺らぎはじめました。お父さんも奥さんがいるから前みたいには会うことも出来なくて…。それでも、家族3人で支え合って暮らしてました。そんな日々が何年も続いて私が10歳になった頃お兄ちゃんが養子に出されることになったんです。お兄ちゃんの引き取り先は、お父さんのところでした』



「お父さん…?」



『そうです。養子、って言ってましたが実際にはお父さんに引き取られたんです。お父さんと奥さんの間には子どもができなくて後継ぎがいなかった。困り果てた末に目をつけたのがお兄ちゃんだったんです。私はお兄ちゃんを奪っていこうとするお父さんが嫌いになりました。お父さんに対する怒りは私が年齢を重ねる毎に大きくなっていって。小さいころは理解できなかったことがだんだん理解できるようになって、お父さんの身勝手さがわかったからです。私には自分の都合で私たちを捨てたお父さんを許すことができないんです。“しょうがなかった”なんて言葉で誤魔化してほしくない。私たちの幸せを奪ったのは確かにあの人なんだから…!!』






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