萩の部屋(鎌倉)

□夜半の雨
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ほの暗い部屋の中で、燭台の僅かな光を頼りに、義時は書物を読んでいた。
「――殿」
不意に部屋の暗闇から、自分を呼ぶ声が聞こえた。
だが、義時は驚く事もなく、また、書物から目を離さずに答えた。
「…何だ?」
「伊豆の件、無事に完遂致しました」
「…そうか、ご苦労。で、父上には?」
「仲間が知らせに。既にお耳になられているかと」
「…わかった」
義時がそう答えると、闇の中の男の気配が消えた。
それからすぐに、義時はそっと蔀戸を開けた。
さぁぁぁ。
細い雨が降り注ぐ。
「…明日は大荒れだな」
雨を見ながら、義時は呟いた。
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