□ビショウ
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ビショウ



真田庵での生活は、よく言えば平和だが、本音を言うと退屈である。その日も広間の座敷には、暇を持て余した男どもがごろごろと寝転んでいた。
そこにいる顔ぶれは日によって多少違えど、大差はない。この日は佐助、鎌之助、甚八、伊三といった連中が集っていた。
「暇。ヒマヒマヒマヒマヒ……あれっ。『麻痺』って聞こえてきた」
甚八が起き上がって言うが、その場の誰も相手になってくれる様子がないので、彼は再び大の字になった。
「……………さすけさぁー、」
佐助が畳の上で転がったまま、自身の栗色の髪の毛を見つめながら口を開く。やはり誰も反応を見せないようなので、佐助はそのまま続けた。
「望月が笑ったとこ、見たことない」
「………は? 何だ、いきなり」
伊三が怪訝な顔で佐助を見た。鎌之助と甚八もうつ伏せになって彼に頭を向ける。
「いま考えててさぁー、のぶしげさまは、とってもあったかい笑顔浮かべるだろ。ユリカマは何か女みたいな笑顔、ジンパはいつも楽しそうな笑顔で、いさは静かな笑顔、…………ほかのみんなの笑顔も思い出せるんだけどさ、望月のだけ、全然浮かんでこないんだ」
「ああ………確かに」
甚八が頷く。
「ぃよっし! 誰があいつを笑わせられるか競争な!」
鎌之助がパンッと手を叩いて言った言葉に、三人の目が輝いた。
かくして、『望月を笑わせよう大作戦』は幕を開けたのである。





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