□知っているだろう、
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 騎士団のミーティングが夜遅くまで長引いた。それは良いとして、不愉快な事態が我が身に降り懸かってきた。任務のために今晩中に屋敷を発たなくてはならないキングズリーとマッドアイ以外はこのまま泊まっていくのが良いだろうという話になったのである。二人以外の団員というのにはもちろん我等がスニベルスことスネイプも含まれている。ミーティングの度に顔を合わせなくてはならないことにだって我慢がならないのに、あろうことかそんな男を我が屋敷に泊めるなどといったことは正しく晴天の霹靂。提案を承けて帰ると言い出したスネイプに、俺もそれを促す言葉を二、三投げ掛けてやったがそれが災いしてリーマスにおとなげないと窘められた。さらに悪いことにはリーマスがモリーと結託してスネイプを引き止めにかかったのである。
 こうして、スネイプが我が屋敷に逗留するという恐ろしく不愉快な事態が発生した。
 屋敷で一番狭い部屋に押し込めてやろうかと思ったがやはりリーマスに窘められたので、スネイプはキッチンから1番近い部屋に収まることとなった。お陰で俺は、夜中に水を飲みに行くのに奴の気配を感じながら行かねばならない。





 午前3時を回っているというのに、スネイプがいる部屋からは明かりが漏れていた。人の家で好き勝手やってくれる、とは思ったが顔を合わせるのも癪なのでそのままキッチンへと向かう。通り様、何とは無しに部屋の方を見ると、僅かに開いた扉から部屋の中が見えた。ベッドの端に浅く座ったスネイプが、顔の前で手を組み、じっと壁を見据えている。その姿はまるで、神に懺悔しているようだった。





 昼になって皆が出払ってしまうと、手持ち無沙汰でならない。まったく不便な身の上だと思う。
 暇が高じて早めにとった昼食の後、ふと昨晩のスネイプのことを思い出した。これもまた、暇のせいである。
 俺は昨晩スネイプに提供した部屋の扉をそっと押し開けた。この部屋は元々客用の寝室で、壁にはこれみよがしに高級な絵などが飾ってあったのだが、それも往時のことだ。いまは、(モリーが勝手に貼った)写真の中で人物が思い思いに活動し回っている。
 スネイプはどの写真を見ていたのだろうかと好奇心が湧いた。昨晩奴が座っていた辺りに腰掛けて、前屈みに肘を膝につける。その体制で正面に見えたのは、ジェームズとリリーの結婚式の時の写真だった。
 白いタキシードを着たジェームズが、弾けんばかりの笑顔でリリーを横抱きにしている。リリーは、夫の首に手を回して、はにかんでいた。
 スネイプはきっと、この世界で一番幸せそうなジェームズを睨みつけていたに違いない。奴は今も昔も、我が親友のことを憎んでいる。―――そう一人合点して立ち上がろうとした瞬間、ふともうひとつの考えが降って湧いてきた。……というより、あることを思い出した。
 学生の時分、スネイプはリリーと驚くほど仲が良かったのだ。幼なじみだと聞いたことがある。リリーがジェームズと恋人同士になってからは二人が一緒にいる姿を見ることがなかったから、すっかり失念していたが、スネイプがリリーを好きだったことは間違いない。

 奴の、懺悔しているかのような姿が脳裏を過ぎり、俺は重い息をついた。場合によっては後で揶揄してやろうと思っていたが、とてもではないがそんな気分にはなれない。

 本当に、どこまでも胸糞悪い男だと思った。












知っているだろう、
( 不毛過ぎる愛など、ただの凶器だ。狂気だ。)







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