□届かぬ祈りと知っていても
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 教会の鐘が聞こえて来る。目を閉じれば純白の結婚装束に身を包む彼女の姿が眼裏に浮かんでくるようだった。
 子供の頃から大好きだった幼なじみの晴れの姿を見ることが出来ないのは、残念の極みだ。婚礼の場において彼女の隣に立てるとは考えもしなかったが、それでも、まさか式にさえ参列出来ないとは思ってもいなかった。否、本当は、しないのだが。

 彼女を傷付けた自分が、いまさらどの面下げて顔を出せるというのか。
 愛して止まないあの笑顔を、私が壊してしまった。それが勢いであったとしても、本心ではなかったとしても、彼女が心を痛めたのは紛れも無い事実。あってはならないことだった。

 リリーの結婚は、慶ばしいことだ。彼女の喜びは我が喜びも同然である。幼なじみとして、かつての親友として、手放しで喜び、祝わなければならない。―――何しろ憂える資格など、私にはもうないのだ。

 教会の鐘が彼女の喜びを教えてくれる。福音だ、と虚ろな脳で悟った途端、息が苦しくなった。

 大好きなリリー。赦して貰おうなどとは思わない。それでも胸臆では、常に赦しを乞うている己がいることを、私は知っていた。なんと矛盾した心中だろうかと呆れてみたところで、何も始まりはしない。

 赦しはいらない。笑顔も、愛も、優しささえも。

 それでもどうか、彼女に訪れる輝かしい未来が、いつの時も幸福であってほしい。ただそれだけ祈らせてほしい。

 私は両の手を胸の前で組んで、静かに目を閉じた。











届かぬ祈りと知っていても
(おめでとう、いまでもあいしています)





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