□未来予想図
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 スリザリンの監督生、ルシウス・マルフォイはハンサムというよりは綺麗な顔立ちをしており、寮生の中ではひどく人気がある。家柄、容姿が良く、その魔法技術も卓越している。加えて後輩への面倒見もいいから、(多分に皮肉屋であろうとも)好かれるのも当然なのかもしれない。ただし、それはスリザリン生にのみ、という条件を冠している。
 それに対してグリフィンドールの監督生、アーサー・ウィーズリーは、スリザリンを除いた他寮の生徒からも人気が高い。明るく頼れる彼はマグルの文化を愛してやまない変人だとも呼び声が高いが、分け隔てのないその性格はやはり人好きがするらしい。彼の周りはいつでも笑い声が絶えない。

 そんな取り留めのない分析をしながら、僕とリリーは星を見ていた。天文学のレポートを書くためである。屋敷しもべが届けてくれたあたたかいココアを飲みながら二人で空を見上げていると、それだけで何やらくすぐったい気分になる。まるでホグワーツに入学する前のようだ。

「こうしてみると、アーサーとルシウスは正反対みたい」
 おんなじ監督生なのに、とリリーが肩をすくめる。僕も頷いた。
「やっぱり寮の違いかな」
「ふたりとも、典型的な寮生ってかんじ」
 鈴のように笑うリリーの横顔を見ながら、僕は将来のことを考えてみた。
 6年後、リリーはきっと監督生になっていると思う。まだ1年生だけど、リリーが魔法の才能に溢れていることは明らかだ。少し怒りっぽいところもあるけれど、とても優しくて聡明な彼女をダンブルドアが監督生にしないはずがない。
 もしそうなったら―――僕も、同じく監督生になれたらいいのに、と思った。そうすれば誰の目も気にせずにリリーと一緒にいることができる。そしてきっと、あの池のほとりの木陰でN.E.W.T.(イモリ試験)の試験勉強をするのだ。

「あの、リリー」
「なあに、セブ?」
 笑顔で僕の顔を眺めるリリーは人形のように可愛い。否、人形より可愛い。外見の可愛さのほかにも、あの無機物たちにはないものを、リリーはたくさん持っているからだ。
 僕はいつもどきどきしながらリリーに話し掛ける。それは、出逢ったときからずっと変わらない。
「君はほんとうに優秀な魔女だ」
「やだどうしたの、セブ」
 出し抜けな僕の言葉に、リリーは少しだけ目を丸くしてから笑った。
「君はきっと、良い監督生になると思う」
 喧しく鳴る鼓動のせいで上手くは笑えなかったけれど、僕は思ったままを口にした。するとリリーは今度こそびっくりしたような表情になる。
「ほんとうにどうしたの、今日のセブ、何だか変だわ」
「ご、ごめん」
 リリーは呆れたようだった。僕の言葉が彼女の気分を害してしまったのかもしれない。慌てて謝ると、リリーは首を横に振ってくれた。
「いいの。突然だったから驚いただけ」
「ごめん」
「でも、わたしなんかに監督生が出来るのかしら。監督生ってすごく大変な仕事だってアーサーが言っていたわ」
「当たり前じゃないか! 君に出来なかったら、他の誰にも出来ないよ」
「ふふ、ありがとう」
 照れたように笑うリリーの顔に、僕はほっと息をついて空に視線を遣った。その視界の隅で、リリーも同じようにしたのが分かった。
「……もしそうなったら、セブも一緒がいいなあ」
「えっ?」
 僕は慌てて目線をリリーの顔に戻した。リリーはまだ空を見ている。
「私とセブが監督生になったら、今は仲の悪いグリフィンドールとスリザリンも、きっと仲良くなると思うの!」
 僕は、俄かに顔があつくなるのを感じた。(多少の目的の違いはあれど)リリーが僕と同じことを考えていてくれたことが嬉しかった。
「……り、リリー」
「ね、セブもそう思わない?」
 大きな緑色の瞳で笑まれて、僕は頷くことしかできない。一つの動きしか出来ない玩具のように何度も頷くと、リリーは嬉しそうに笑声をこぼした。






未来予想図
(いつも、きみといっしょにいれたらって思っていた)








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