士道

□雪の降る頃
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「へっくし!」
「風邪ですか、副長」
船の甲板で髪をなびかせていた歳三は背後からの声に目だけ向けた。
「いや。……それより島田、お前その副長っての止めろよ」
「どうしてです?」
「もう新選組じゃねぇんだ」
「………じゃあ、土方さん。寒くありませんか、風邪引きますよ」
上着を歳三に手渡しながら、島田は柔らかな表情で言った。歳三はフン、と鼻を鳴らす。
「俺ァ寒いのは駄目なんだ」
「中に入りましょう」
「蝦夷はもっと寒いんだろ。今から慣らしておかねぇとな」
遠く続く海原を見つめながら言うと、思わず嘲笑が漏れた。
「何です?」
「蝦夷になんか、死んでも行かねぇと思ってたんだ。昔、平助に笑われたことがある」
「藤堂さんに?」
島田は彼の背に上着をかけながら少し目を丸くする。
「まだ試衛館にいた頃さ」
遠くを見るように目を細めた歳三は、淡く微笑んでいた。
島田はその横顔を見て、ふと彼の髪に白い何かがついているのに気付く。
「副長、髪に何か………あ、」
見上げると小さな白が、ふわふわと舞い落ちてくるところだった。
「雪ですよ、副長!」
「ああ」
頷き、歳三も空を仰ぐ。灰色の空から、それはいくつも落ちてきた。

「……初雪だな」


呟いた歳三が至極優しい表情をしていたことは、島田も知らない。




―――了。



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