□ビショウ
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「殺されるところだった!」
望月の部屋から出てきた佐助は開口一番青い顔で叫んだ。よしよし、と甚八がなだめる。
「信じられない………あの洒落で笑わないなんて」
「………むしろ私はあれのどこで笑うのか知りたいな」
鎌之助は苦笑して肩をすくめながら三人に歩み寄ってきた。
「どこに行っていたんだ、鎌之助?」
伊三が彼を不思議そうにみる。――否、視線は鎌之助というよりその背後に立つ女性へ釘付けになっていた。
「かっ、鎌之助! 誰だその別嬪さんは!」
甚八は佐助そっちのけで鎌之助に詰め寄った。
「美人だろ? 前に探索中に知り合ってな。これだけの美人前にして、にやけないヤツはいないだろう」
鎌之助の言葉に、甚八と伊三が大きく首を頷かせる。佐助もしっかりにやけた顔で、女を見つめていた。
「さぁーて、あいつの間抜け面を拝みに行こうかね」
鎌之助はにやりとして女と共に望月の部屋へ向かった。

「よっ、望月!」
鎌之助は人のよい笑顔で望月に声をかけた。
「……今度はお前か」
呆れたように顔を上げる望月。かなり目付きが悪い。
「まぁまぁ、そんな顔しなさんなって。一緒に酒でも飲もうぜ?」
美人の酌付きだ、と笑って言う。望月はじっと鎌之助と、女とを見た。にこり、と女は彼に微笑みかけた。
「…………由利、その女は?」
しばしの沈黙の後そう言った望月に、鎌之助は内心でほくそ笑んで答える。
「私の仕事仲間だ。美人だろ?」
「……そうだな。しかし、少し化粧が厚い」
サラリとしかしグサッとくる台詞を口にした望月。女の顔が笑顔のまま引きつった。鎌之助も少し焦ったような表情をする。
「白粉で塗り固めた美しさより、手を加えない美しさの方がいいと思うが」
どうだ? と顔を上げて二人を見る。鎌之助は溜め息をつく。女に至っては、真っ赤な顔をして卒倒寸前とばかりだ。だが如何せん、相手はそれこそ自然なままの美しさを手中にしている男だから(下手をしたらその辺のどの女よりも美しい)、言い返すことも出来ない。女は荒々しく立ち上がると、望月と鎌之助を振り返らずに部屋を出た。
「……あちゃー。ホントに容赦ないね、お前は」
鎌之助は深い溜め息をついて女を追って部屋を出た。
「事実を述べたまでだ」
事実よりお前の方が余程残酷だよ。
鎌之助は三度目の溜め息をついた。





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