□ビショウ
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「あいつは男じゃないのかも知れん」
なんとか女をなだめて甚八たちの元に戻ってきた鎌之助の第一声に、他の三人も思案顔になった。
「美人を前ににやけるどころかあんな毒舌とは――まぁ確かにちょっとばっかし厚化粧ではあったけど――まるっきり女に興味がないんだな」
納得したように何度もうなずく鎌之助。
「そんなに厚化粧だったかー?」
「もったいないことするねぇ、望月も」
甚八と佐助は互いに顔を見合わせた。
「うっし、お次は俺様が行くぜ」
伊三は普段見せないような真顔で言って立ち上がった。まるで死を覚悟したように思い詰めた表情である。
「俺も男だ! 小細工なしでぶつかってきてやる!!」
「伊三……! 死ぬんじゃねぇぞ!」
才蔵や十蔵辺りが見たら鼻で笑われるような鬱陶しい雰囲気が流れるが、本人たちはいたって真面目である。


「望月ィィィ!!」
お命覚悟、と言わんばかりの怒号と共に伊三は望月の部屋へ突入した。彼が振り返る前に背中から抱きつく。
「……なんの真似だ」
海野辺りなら激しく抵抗して怒鳴り散らすところであろうが(少なくとも十蔵に抱きつかれた時はそうだ)、望月は大した抵抗もせず伊三を睨みつけた。その落ち着き具合いが、また怖い。伊三は己を奮い立たせた。
「これでどうだ!」
言い、望月の体をくすぐる。さすがの望月も、驚いたようだ。
「……なッ、貴様何の……ッ………やめろ!」
「やめるもんかぁぁ」
望月は伊三を引き剥がそうと暴れ出し、一方伊三は離れるまいと必死にしがみついた。
「………ふ………っ」
「んあっ?」
笑ったか? と伊三が顔を上げた時。
「ふざけるなぁぁっ」
望月の肘鉄が見事に彼の顔面に直撃した。
「つぁ……」
伊三は顔面をおさえてのけぞる。
「余程殺されたいようだな………?」
殺気。伊三はゲッ、と後ずさった。
「ま……っ、待て待て待て! これには深い事情が……っ、」
「聞く耳持たん。さぁ、おとなしく死ね」
佐助の時の比ではない。望月は、――本気だ。仲間であろうがなかろうが、期限を損ねられたからには彼にはどちらでも構わないわけで。
「俺が悪かったぁぁぁっ!!」
叫びつつ、伊三は脱兎のごとく逃げ出した。この際体裁なんて繕っていられない。
何本か弓が頬をかすめ、伊三は望月を振り返りもしなかった。





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