□ビショウ
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九死に一生を得た伊三は、戻って来るなり鎌之助にしがみついた。すかさず甚八が引き剥がす。
「……伊三、かっこわるー」
「るせぇ! お前こそ逃げ帰って来ただろうが、サル!」
呆れた目で見てくる佐助の頭をどつき、伊三は深く息を吐いた。
「……それにしても、本気で怒ってるなー、望月のヤツ」
のんびりした声で鎌之助が言うと、甚八は絶望したような表情になった。
「……俺、ぜってぇ殺される………」
「ちなみにジンパ、お前はどうやってあいつを笑わせる予定だったんだ?」
鎌之助の言葉に、甚八は花束を取り出す。
「これあげたらさぁー、『まぁ綺麗なお花! うふふ、ありがとうジン!』みたいな感じになるんじゃねぇかなぁーと思って……」
「馬鹿か、お前。馬鹿だろ、なぁ?」
伊三が甚八を哀れむような目で見る。
「そこまで言うこたぁねぇだろ!」
「大体、それ何処の乙女の台詞だよ………」
「やめといた方がいいよ、ぜっったい! 命がおしいなら!」
口々に言われ、甚八はますます肩を落とす。
「そうだよなぁ……」

「お前たち、先程から一体何をやっているんだ?」
背後からの声に、四人は『望月が来た!』と一瞬身を縮めた。しかしそれが彼でないと分かると、ほっと安堵の溜め息をつく。
「なんだ、いつも人を小馬鹿にした微笑のくせに信繁さまの前になるとものすっごく明るく優しい笑顔になる海野ではないか。驚かせるな!」
「一体何を言ってるんだ? また何か企んでいるのではあるまいな」
やたら長い肩書きをつけられた海野は当然顔をしかめ、四人を睨みつけた。
「それがさぁ、望月を笑わせようとしているんだけど、あいつ全っ然笑わなくてさぁー」
佐助がうんざりしたように肩をすくめた。
「何だ。そんなことか」
海野は簡単じゃないか、と息を吐いた。
「『そんなことか』じゃねぇよ。こっちは危うく死者を出すところだったんだ!」
死にかけた伊三が憤って言う。海野はもう一度息を吐いて、甚八の持つ花束を指差した。
「それを寄越せ」
「えっ、これ? ……やめておけって。死にたいのか?」
甚八がとんでもないと首を振ったが、海野は花束を取り上げた。そして器用に一本一本を編み、花冠を作り上げる。
「やめておけってー。死ぬぞー!」
そのままそれを持って望月の部屋へ向かった海野に、四人は控え目に声をかける。

ああ、遂に死人が出るのか……。四人は一様に思った。―――が。

「何だ、六。お前もあいつらの仲間か」
至極不機嫌に望月が海野を見上げる。
「何の話だ? 六郎、あまりかりかりするな。ほれ、綺麗だろう」
海野は優しく微笑んで花冠を望月に差し出した。彼はじっとそれを凝視する。
「……これ」
「お前にやろう。頭に乗せるか?」
「ん」
海野の言葉に望月は顔を上げて、小さくうなずく。海野は微苦笑をして、彼の頭の上に花冠を乗せてやった。
「よく似合う」
「ん。……いい香りだ」
そう、言って望月は。
フワリ、と笑ってみせた。その笑顔に、傍観していた鎌之助たちは思わず目を見開いた。

あまりに綺麗で、嬉しそうな笑顔。

言葉を失って見とれてしまうような、―――美笑。

「……いつも笑ってればいいのに……」
四人が口々に呟いたのは、言うまでもない。


――了.
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