□長い雨の後に<後編>
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「雨で、土砂が崩れて……しきちゃんが、下敷きになっちゃったんだ!」
 佐助が泣きそうな顔をして叫ぶ。
 予期せぬ答えに、声を失った。
「…………何だと?」
「あっという間の出来事で……、土砂の下を探したんだけど、見つからないんだ!」
「見つからない、だと? 逃げたのではないのか!」
「それはないよっ。さすけ、しきちゃんが土砂に飲み込まれるの、間違いなく見たもん! 早くしないと、死んじゃうよぉっ!」
 佐助の声に、才蔵たちも顔を出した。
「何かあったのか」
「……おしき殿が、土砂崩れに遇った…っ。動ける者は皆、ついて来い! 小助、すぐに手当てをできるように待機していてくれ!」
 海野は言い、青い顔で走り出した。驚きを隠せない才蔵や鎌之助たちもあとを追う。

  ―――海野様のお役に立ちたいだけでございます。

 彼女の笑顔が脳裏をちらつく。心臓がいやに激しく高鳴っていた。これは、走っていることだけが理由ではないだろう。
(……わたしのせいか……っ?)
「落ち着け、六」
 海野が舌打ちすると、横から声をかけられた。見ると、朝まで寝込んでいた望月が、並んで走っていた。
「六郎、何やっているんだ! 病人はおとなしく……」
 海野が目を三角に説教をしかけると、彼は肩をすくめて見せた。
「もうすっかり復活した。……それに、始末はつけなければならない」
「……始末?」
 海野が聞き返したが、望月はそれきり口を開こうとしなかった。相変わらずの無表情で、前を見据えて走っている。
「………ッ、くそ………っ!」





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