□長い雨の後に<後編>
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 普段海野が山菜採りの際に通る小道は、すっかり土砂の下だった。しきが自分が行くと言い張らなければ、今ごろは海野が土の下だったかもしれない。―――しかし、そうならなくてよかった、とは、彼には到底思えそうになかった。自分の代わりにしきが土の下かもしれないのだ。そう思えというほうが、無理な話である。しきが、何者であっても。
「しきちゃぁーん!」
「返事しろ!」
 佐助や甚八たちの呼びかけを聞きながら、海野は倒れた木々をどけた。
 ―――無事であってくれ。たとえ間者であったとしてもいい。逃げおおせていてくれ。
 必死で祈っている自分に、苦笑がこみ上げる。あれほど、警戒していたのに。疑っていたのに。
「…………六!」
 名を呼ばれ、はじかれたように顔を上げる。海野以外の者も、心配の色を浮かべた顔を声のした方に向けた。
「何かあったのか、六郎?」
 はやる心を押さえて足早に望月の方に歩いていく。望月は何も言わずに、片方の腕を海野の前に突き出した。手には何かが握られている。
 泥にまみれた、人型の、―――式神人形。
 海野は一瞬それを見つめた。だが次の瞬間には恐ろしい形相で望月をにらむ。
「こんなときに、何を考えているんだお前は!」
「…………見つかった」
 望月は無表情に海野を見つめ返して答える。
「だから、今はそんな人形を探している場合ではないと―――」
「しきだ」
「………………何?」



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