□長い雨の後に<後編>
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 海野は思い切り顔をしかめて人形と望月とを見る。
「まだわからないのか。……しきは、わたしの式神だ」
 さらりと言う望月。
その場の空気が凍る。
「………………はあぁっ?」
「だから、この人形がしきなのだ」
 あくまで当然そうに彼は言い、驚愕する甚八にホレ、と人形を放る。甚八は慌てて受け取り、しげしげと見つめた。
「これが、おしきだというのか?」
 鎌之助が信じられない、と言うように訊く。望月は、何度もしつこい、とうなずいた。
「……では、何か? しきは、お前が操っていたというのか」
 海野がうつむきながら問う。今度は、望月は首を振った。
「いや。アレが意思を持ち動いていたのは、アレ自身の力だ」
「……ソレは、人形なんだろ? 自ら動くはずがない」
 才蔵が美しい顔を歪めて言い捨てる。隣で、佐助が大きくうなずいた。
「ただの人形ではない。式神はもともと精霊からなるモノだ。普段はこの人形を媒体にしているが、しようと思えばいくらでも、人の姿になることはできる」
 望月は言いながら甚八から人形を取り返す。そして、再び海野を振り返った。
「しかし、精霊とは言え力はごく小さいものだ。普段ならわたしが封印しているから、自ら姿を変えることもできぬ」
「じゃあ何でさっきまで動いてたんだよ?」
「……―――六郎が寝込んでいて、人形への拘束力が弱まっていたから、か?」
 まだ得心いかないように口を尖らせた鎌之助の言葉を受けて、海野がつぶやく。ご名答、と望月は淡く笑った。
「加えて、お前への強い思いが、人の姿になるだけの力をコレに与えたのだろう」
 彼の言葉に、海野は怪訝な顔をする。式神に強く思われる心当たりなどまるでない。それを汲んだ望月が口を開く。
「恩返しだ」
「……恩返し? 何のことだ」
 望月の言葉を反復する。ますます思い当たらなかった。



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