十
□此れが我が家の戦事情
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「信繁様、城下の者はほぼ城に入った様子です」
戦に臨んで髪をひとつにまとめた望月が入ってきた。彼もまた、髪を結わえている以外はほとんどいつもと変わらない服装である。
「うん、ありがとう」
「しかし、この領地は民衆が好きだねィ」
十蔵がカラカラと言うと、海野が何処か誇らしげに背筋を伸ばした。
「大殿も若も、城下の民に慕われているからな」
「父上の人柄の為だよ。私は何もしていない」
信繁は肩をすくめてみせる。すかさず元小姓の二人が言い返す。
「何をおっしゃる。若はしょっちゅう城下に出かけておいでではないですか」
「そうです。我らが止めるのも聞かず百姓に混じって畑を耕してみたり子供と戯れてみたり」
私たちの苦労も考えてください。
海野の言葉に十蔵は思わず吹き出す。信繁は困ったように肩をすくめた。これでは誉められているのかけなされているのか分からない。
「だってな、よく父上が言っているだろう、人は―――」
「人は石垣、人は城」
主君の言葉を遮って臣下たちは声を揃えた。三人が三人耳たこです、とばかりの表情を見せる。
「ああ。そうだ」
信繁は嬉しそうに声を立てて笑った。海野らも小さく笑いを漏らす。
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