□意地っ張りの帰る家
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「六ー、連絡はあったか!」
庵の中からのそわそわとした幸村の声に苦笑して、海野は声をあげた。
「いいえ、由利からまだ」
「……そうか」
諜報に行ったきり帰らないことが多い鎌之助はいつも手紙で知らせをよこす。それはいつも彼が庵を出てから三日以降にしか届かない。幸村はそれをいつも待っていた。才蔵や佐助と違いあまり庵に戻らない鎌之助は、やはり心配の対象なのだろう。……才蔵や佐助もまた違った意味で心配の対象になっているが。

「―――海野?」
道の暗がりからする声に海野は顔を上げてそちらに提灯を向けた。
「由利!」
「ははっ、小間使いのヤツがいつか言ってたの、本当だったんだな」
海野は笑いながら歩いてくる鎌之助に駆け寄り、顔をしかめた。
「何がだ」
「私の文を届けに行くと、決まって庵の前にしかめっ面の武士が立ってるって。……お前のことだったのか」
屈託なく笑う彼に、海野は憮然とする。
「お前がなかなか戻って来ないから、幸村さまが心配なさるんだ、馬鹿」
「いいだろ、今日は戻ってきたんだから」
鎌之助は海野と肩を組んで言う。海野は仏頂面のままだったが、鎌之助の腕を払おうとはせずに溜め息をついた。
「今回はずいぶんと早かったんだな」
「悪いかよ」
「馬鹿者、誰もそんなことは言ってないだろう」
海野は女装したままの鎌之助に目を向けて表情を柔らかくした。
「つまらない意地を張ってないで、いつも早く帰ってこい」
「………あァ」
鎌之助は嬉しそうに顔を歪めると、極上の笑顔で言った。
「ただいま、」
「ああ。ご苦労だったな」
微笑み、海野は鎌之助と幸村の元に向かった。優しい主君の、喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。
明日の朝は私も幸村さまを起こすよ、という鎌之助の申し入れを伝えたら、それはますます幸せの色を深めるのだろう。
思い、海野は自身の手を仲間の肩に乗せた。



―――了。


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