□背中合わせの別路
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「お前がそうだとしても、実際にお前のせいで一生を棒に振ったやつは結構いるんだ」
 くだらないことはもうやめろ。
 その言葉にルシウスは、ローブの中から杖をとりだし、アーサーの鼻先に突きつけた。アーサーもローブの下で握り締めていたらしい杖を、ルシウスの頬に当てる。
「くだらないことだと? 何も知らない貴様が偉そうな口をきくな」
「何も知らないからこそ、お前がどんなに恐ろしく、愚かなことをやっているのか、冷静に理解できる」
 ルシウスは自分より少し背の高い相手を上目使いに見上げ、一歩近付いた。アーサーもそこで、退くことはない。
「愚かなのはどちらだ。僕が学んでいる魔術は、学校で教師たちが教える子供騙しよりもずっと崇高で、奥が深い」
 そして何より無敵だ。
 険しい顔を再び冷笑に変えて、言い放つルシウスに、アーサーはくしゃりとしかめっ面を作った。
「俺は、お前がこれ以上闇に堕ちる姿も、見たくない」
 ルシウスはハと息を飲んだ。杖を折れんばかりに握り締め、紅潮させた頬に憎しみを貼りつかせる。
「情けをかけているつもりか? 僕は、君のことは大嫌いだが、―――とりわけ、その偽善者じみた態度が、一番気にくわない。虫酸がはしる………っ!」
 一気にまくしたてると、彼はきびすを返して歩き出した。
「ルシウスっ、」
「気安く僕の名を呼ぶな」
「ルシウス、待てよ」
 追い掛けてくるアーサーは実に鬱陶しく思えた。ルシウスは今すぐに彼を殺したい、と―――殺せるのに、と歯噛みした。
「……憎しみは、最高の魔術を作り出す。君こそいっぱしの魔法使いになる気でいるのなら、誰か―――僕を憎めば、いい」
「ルシウス、俺は人が不幸になるような魔法を学ぶために此処にいるんじゃない」
「それも詭弁だ。そして、いずれ痛い目を見るのは君だ」
 憎しみは人間を強くする。それならば、僕は君を憎めば、憎むほど強くなれる。僕の君への憎悪は、果てないから。
「ルシウス」
「僕にとっては君が邪魔で、君にとっては僕が邪魔。―――それでいいだろう、アーサー」
 それだけ言ってルシウスは、蛇寮の方へ歩いていった。アーサーも、今度は彼を追い掛けることはなかった。



―――憎い憎いと呟いて、その奥深くに押し沈めたものは、


 途方もない、矛盾。










―――fin.





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