□I can love myself
1ページ/6ページ


愛がほしかった。偽りなんかじゃなくて、作り物なんかじゃなくて、誰かのお下がりなんかじゃなくて―――………。俺だけに向けられる、真実の愛が。

I can love myself

父さんや母さんに優しくしてもらうためには、とにかく従順でいること。「はい、父上、母上、」なんてね。そうして笑顔でいればいい。物心ついた時には、それがもう染み付いていた。無意識のなかでもできる。心のなかで「黙れこの野郎」などと罵倒していても、外見上はにっこり笑っていられるんだ。

鏡の前に立って、自分の姿を見つめる。「母上」が整えてくれた身なり。可笑しいほどきっちりした、パーティにでも行くような衣装だった。

カレンダーを一瞥する。丸のついた日付。9月1日。今日は、11年間待ち焦がれた日だった。自分の誕生日なんかよりも楽しみにしていた日。今日の11時に出る列車に乗って、ホグワーツ魔法魔術学校に行くのだ。
ローブや杖や鍋なんかを詰め込んだトランクを引きずりながら、もう一度鏡を見る。
そこには、如何にも聞き分けのよさそうな少年が立っていた。張り付いた作り笑いは、まわりの大人たちのお気に入りだ。自分の持つ全ての中で、この笑顔が二番目に嫌いだった。ワースト・ワンはもちろん、両親に気に入られようと振る舞う自分。
「行ってくるよ」
鏡の中の少年に言い、部屋を出た。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ