□ショッキングサマー ―紅茶事変―
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ショッキングサマー
――紅茶事変――


グリモールド・プレイスには娯楽と云うものがない。
その日も、子供たちは暇をもてあましていた。外に出ることも出来ず、悪戯も出来ず、学校が始まってないのでそう勉強することもないのだ(もっともこれはハーマイオニーに限ってだが)。
食堂では不死鳥の騎士団の会議が行われている。双子は例によって例の如くに会議の内容を盗み聞きしに行っている。
ハリーとロン、ハーマイオニー、ジニーは何をするともなく集まって、ベッドの上に寝転がっていた。
「暇だよ。ハリー、チェスでもしようぜ」
ロンが言うと、ハリーはまたか、というように溜め息をついた。
「もう飽きたよ。ああ、スネイプが糞爆弾まみれになればいいのに」
そしたら少しは楽しくなるのにな。
ハリーが微笑うと、ハーマイオニーがとんでもないと顔をしかめた。
突然、バチンと大きな音がして双子が現れた。四人はさして驚いた様子もなく彼らを見た。
「喜べ、みなの者」
フレッドがにやりと口角を上げて言う。
「いい暇潰しが見付かったぞ」
ジョージも、フレッドとそっくり同じ笑みを浮かべて言った。
「何だよ?」
ロンが訝しげに兄たちを見る。
「たった今、下では会議が終わったところだ」
「みんなもう帰ってしまってね」
「だが、全員帰ったわけじゃあない」
双子の言葉に、ジニーが体を起こした。
「誰が残っているって言うの?」
「よくぞ聞いてくれた、妹よ!!」
フレッドが大袈裟に言う。
「今食堂にいるのは、シリウスと」
「ルーピンと」
「我らがスネイプ教授だ」
双子は楽しそうに声を揃える。
ハリーとロンも、にやりと顔を見合わせた。ハーマイオニーだけが心配そうな表情をする。
「シリウスとルーピン先生とスネイプ先生? 大丈夫かしら、また喧嘩するんじゃない?」
「何言ってるんだよ、ハーマイオニー!」
ロンが勇んで立ち上がり大声を出した。
「そうだよ、喧嘩してくれた方が楽しいに決まってる」
ハリーも、腹黒さすら感じさせる微笑を称えた顔で言う。
「さぁ、見物しに行こうよ?」


「…………なぁ、見えるか?」
音を立てないように一階へ降りてきた六人は、食堂の戸を僅かに開けて中を覗いていた。
「―――うーん、ちょっと待って………」
ハリーが呟く。
「……もうすぐ見えそう………………っえ?」
「なぁに? なんか変なものでもいた? ………何だ、いないじゃ…………」
ハリーとジニーは言葉を最後まで紡ぎ終えることなく口を閉ざした。
「どうしたの、二人とも?」
ハーマイオニーはきょとんとして自らも食堂の中を覗いた。
「あー……ハーマイオニー、やめておいた方が…………」
ハリーの控え目な制止を聞かずハーマイオニーはドアの隙間に目を押し当てた。
みるみるうちに彼女の目が驚愕で見開かれる。

当然しかめっつらで口論をしていると思われた二人の黒髪は、口論などしていなかった。
口論どころか二人は、テーブルに向き合って座り、チェス盤を囲んでいた。二人の様子を、ルーピンが穏やかに微笑している。
「…………嘘でしょう?」
思わず、ハーマイオニーはそう漏らした。
シリウスとスネイプが仲良くチェスをしているだけでも息が止まりそうなほど驚いたと言うのに、―――あまつさえスネイプが、あの冷酷無慈悲と名高いスネイプが楽しげな笑みを浮かべているだなんて―――。
「…………見なかったことにしないか」
スネイプに対しすっかり笑みの消え失せたハリーは小さく呟く。
その至極適当な提案に、他の五人が反意を持つはずがなく。彼らは青い顔で部屋へ戻って行った。







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