□時間泥棒
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ここ数年、夏休みの終わりはジェームズの家に集まるのが恒例になっていた。シリウスは夏休みの最初から居座っているし、ピーターは8月に入ってから、リーマスは満月が終わり次第来る。
今日はリーマスが来るということで、晩御飯はご馳走だ、とジェームズの母親が言っていた。
「…………はぁっ? 何だって?」
ジェームズの部屋でくつろいでいたシリウスが、顔をしかめてジェームズを見る。
「エヴァンスが、ここに来るの? 本当に?」
ピーターも目を丸くして彼を見る。
そんな二人にジェームズは満面の笑みを浮かべてみせた。
「本当さ! 全ては僕の努力の賜物……」
「待て待て待て。待ってくれ、プロングズ。ここにエヴァンスを呼んで一体何をするんだ? あいつ呼んだら作戦会議ができないだろう!」
シリウスが言うと、ジェームズは肩をすくめる。
「何をするかって? 決まってるだろう、パッドフット! お勉強さ!!」
「えぇーっ」
ピーターは嫌そうに――本当に、心底嫌そうに――声をあげた。ジェームズがピーターを睨みつける。
「仕方がないだろう! そうでも言わなきゃオーケーしてくれなかったんだ!」
それなら誘うな!
シリウスはそう言いたいのを抑えて、溜め息をついた。
「……もちろん、エヴァンスは今日帰るんだよな?」
「まさか。夏休みいっぱい滞在してくれるよ」
けろっと言ったジェームズに、今度はシリウスとピーターが、まさか! と声を揃えた。
「男の中に女一人だぞ?!」
「大丈夫さ。僕の母さんもいるじゃないか。あ、でも、エヴァンスに妙なことするなよ?」
「お前が言うか、その台詞を?」
ピーターに向かって睨みをきかせて言うジェームズに、シリウスは呆れた声をあげた。
「しかし、よくエヴァンスが承諾したな」
「僕の努力の賜物さ」
誉めてくれ、と言わんばかりに胸をそらせるジェームズ。努力って? とピーターは首を傾げた。
「まず夏休み前にザッと10回ほど誘ってみた。だが、毎回却下だ。仕方ないから、夏休みに入ってからはふくろうを毎日送った。『うちに来ないか?』『嫌よ』、『いいところだぜ』『結構よ』、『わからないところ教えてあげるよ』『一人で出来るわ』……そんなやりとりをして、みんなも楽しみにしているのに、と言ったら、食い付いてきたんだ!」
エヴァンスは池の魚かよ。シリウスは話を聞きながら、胸中で親友に突っ込みを入れた。
「みんなって誰、と聞かれたから君達の名前を挙げた。もちろんリーマスもね。そしたら別に行っても構わない、と我が姫はおっしゃったんだ!」
小踊りをせんとばかりに上機嫌なジェームズ。シリウスはすっかり呆れていたが、彼が嬉しそうなので良しとすることにしたのだ……が。
「……それって、エヴァンスはジェームズより『みんな』の誰かが目当てで来るってことだよね?」
ピーターの言葉が一瞬にしてジェームズを地獄に叩き落とした。
「…………まさか!」
ジェームズは気丈に言ったが、いやでも…、と思案しはじめた。





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