士道

□僕らは。
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僕らは。


「斎藤さん!」
元気のいい声に、背後から呼び止められる。振り向くと、手を力強く振ってこちらへかけてくる少年の姿があった。
「沖田さん」
「やっぱり、斎藤さんだった。後ろ姿見て、そうかなぁと思ったんですよ」
にこにこと言って沖田は、斎藤の横に並ぶ。
「今日、道場寄っていきません? 久々に手合わせ願いたいなア」
「………沖田さん」
「何です? あ、もしかして忙しいですか?」
言われ、斎藤はそうじゃなくて、と首を振る。
「そうじゃなくて、どうしてあんたは俺に敬語を使うんです?」
「どうして……って何故?」
きょとんと首をかしげる沖田。斎藤は肩をすくめた。
「あんたの方が俺より年上なんです。敬語を使う必要はない」
「うーん、そう言われれば……」
沖田は思案顔になった。
「でも、斎藤さんて私なんかよりずっと大人っぽい気がするし」
ね? と同意を求められ、斎藤はしかめっつらで首を振った。
「うーん、じゃあ、敬語は使わないようにするよ。ね、はじめ!」
にこにこと無邪気な笑顔で呼ばれた斎藤は不思議そうな顔をした。
「何故下の名前」
「だって、その方が仲良しに感じるじゃない」
沖田はふふっと嬉しそうに笑って言った。斎藤は少し苦笑して息をつく。
「な、はじめも敬語使わなくていいよ」
「それじゃあさっきまでと変わらないです」
斎藤は憮然と返す。すると沖田は先程と同じ言葉を繰り返した。
「だって、その方が仲良しに感じるじゃない」
沖田の笑顔に、諦めたように溜め息をついた。
「沖田さんにはかなわないな」
「総司、」
「名前までか!」
呆れたように言うと、沖田は口を開く。
「だって、その方が………」
「仲良しに感じるんだろ?」
にやりとする。二人は互いの顔を見合わせて吹き出した。



たくさんの思い出と
たくさんの笑顔と
すこしの喧嘩を抱えて、
僕らは。
確かに『その時』を生きていた。



了.

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