士道

□雪の降る頃
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「トシさん、トシさん、雪ですよ!」
騒がしさに瞳をこじ開けると、鼻の頭と頬を赤くした惣次郎の顔が目の前にあった。いつもより三割増で目が輝いている彼を鬱陶しそうに見、歳三はゴロリと寝返りを打った。
「るせぇ、ガキみたいにはしゃいでんじゃ……うおっ、」
惣次郎の次は平助の顔だ。歳三は少しぎょっとしたように目を見張る。
「いいじゃないですか、土方さん。丁度降ってきたとこなんです。ね、一緒に見に行きましょうよ」
「い・や・だ。誰が好き好んで外なんかに出るかってんだ」
歳三は両側からの視線を遮るように布団を被って言う。途端にくぐもった抗議の嵐だ。
「だって雪が」
「そうですよ初雪なのに」
「年に一度しか降らないんですよ、初雪は!」
「知るか。冬なんだから雪ぐれぇ降るだろうが」
歳三が冷たく言い放つと、聞えよがしに惣次郎と平助は溜め息をついた。それでもだんまりを決めこんでいると、ひときわ深い溜め息の後で二人が立ち上がる気配がした。
いやに諦めがいいなと思いつつ、歳三は再び訪れた眠気を布団にもぐったままで迎え入れようとした。

―――が。

「せぇ――の、」
「で!!」
まだ声替わりしきっていない元気な掛け声がしたかと思うと、歳三は布団の外にゴロゴロと投げ出された。
何があったのかと上身を起こせば、布団の横を掴んだ二人が満面に笑みを浮かべた顔で歳三を見ていた。
「………てめぇら、」
「さぁ行きましょトシさん」
「早くしないと止んじゃうかもしれないですよ」
歳三は右手を惣次郎に、左手を平助に引かれ渋々立ち上がった。
「ったく、子供じゃねェんだぞ」
「何言ってるンですか。俺たちまだ子供ですよ」
「ふん、都合のいい時だけ子供ぶりやがって」





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