□解せない男
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 僕はいつものように図書館で食後の時間を過ごしていた。夕食の後のこの時間帯はほとんど人気がなく、静かで実に過ごしやすい。
「スニベリー」
 けれどもそれに、例外が生じることもある。
 ひどく作り物じみた笑顔で僕の名を読んだ男―――その不愉快なあだ名を一番始めに呼び出した張本人だ―――は、僕の席の向かい側に陣取ると、嫌味ともとれるほどの笑みを湛えた唇を歪めた。
「相変わらず勉強熱心だな。それは何か、新手の毒薬の調合法かい?」
「黙れポッター。僕はお前などに構っている暇はない」
「闇の魔術を学ぶのに忙しいんだろう? 知っているとも!」
 ポッターは大袈裟に肩をすくめてみせ、言ったついでとばかりに僕が読んでいた本をひょいと自分の方へ引き寄せた。とことん邪魔をする気らしい。
「ふぅん、マグルの出版社の本だな? 数学……数字の成り立ちでも勉強するのか」
「学ぶのは数字をつかった計算のほうだ。博識な首席殿ともあろう男が、まさか知らないのか?」
「知らないね。僕は君が喉から手が出るほど欲しい『純血』の生まれだから」
 僕の嘲りにそう返すが早いか、ポッターは苦虫を噛み潰したように不快そうに顔をしかめ、口内でくだらない、と呟
いた。それは本に対してではなく、『純血』にこだわる(と彼が思っている)僕に対するアイロニーであることは、明白だった。






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