□ほんとうのことを何も言ってくれない彼について
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「僕は、おまえのような穢れた血が、大嫌いだ」
 噛み締めるように言った彼の言葉を何度も胸中でリフレインさせて、わたしは彼の白く透き通った肌をみつめた。ひどいことばを口にした彼は、彼自身のことばに傷ついたように青ざめた顔をしている。へんなかおね、と微笑うと、彼は気味が悪そうに目を白黒させた。
「なぜ笑うんだ」
「だって、あなた面白いんですもの」
「どうかしてる」
「そうね、わたしもそう思うわ」
 くすくす、くすくす。横隔膜が痙攣してしまった時のように込み上げてくる笑いをとどめるつもりはなかった。そんなわたしを見て実に人間らしく表情を変化させる彼の反応は、カレイドスコープに似ている、と思う。
「僕は、お前を穢れた血と、」
「あなたが穢れているというのなら、きっとそうなんでしょう」
「……は、」
「でもそれはあなたもいっしょ。―――ねぇ、知ってる? マグルの世界のイギリスでは、魔法使いは未だに異端視されているの。だから、マグルからしてみたら純血と称するあなたたち魔法使いの方が、穢れた血なのよ」
「……これだからマグルは愚かだと言うんだ、」
「えぇ、ほんとうに愚かだわ。―――血が穢れているという概念を、はじめに持ち出してきたあなたたち純血主義には負けるけれど」
 くすくす。
 わたしの言い分に言葉を詰まらせた彼は、今度は興奮で頬を紅潮させている。ほんとうに忙しいひとだ。わたしは彼の(まるで女の子のように)すべらかな手の甲に指を触れさせた。払われることはなかったけれど、彼はひどく怯えた瞳で自分の手を見ている。

「ねぇ、あなた、ほんとうにマグル生まれが穢れているだなんて思っているの?」
「……な、にを……いまさら、」
「もしそうだとしても、ご愁傷様。軽蔑なんかしてあげないわ。ただ―――あなたに同情はするけれど」
「おまえに同情される謂れなんてない!」
「あら、そうかしら」
 わたしの指からすり抜けてしまった手は固く拳を握る。
「家に縛られるあまり自分の気持ちに素直になれないあなたは可哀相だと思うわ」
 わたしはすこしだけ彼の方へ身を乗り出す。すると彼はぎしりと身を引く。その瞬間に痛んだわたしの胸中のことなんか、彼はこれっぽっちも知らないのだろう。
「言ってご覧なさいよ、ほんとうは、わたしのことが好きだって」
 彼の表情はいよいよ、ゴーストでも見るかのように強張っていた。ああ、そんな顔をしてほしいわけではないのに!

「言ってよ、ドラコ……」

 大好きなひとに拒絶されてしまうのは、こんなにも苦しくて辛い。






ほんとうのことを何も言ってくれない彼について

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