□優しい笑顔
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 会いたくないと思っている者とほど、偶然の遭遇を果たしてしまうものだ。

 セブルスは図書室のドアを開け、体をこわばらせた。
 土曜の昼のそこに、生徒の姿はほとんどない。晴天のホグズミードに出かけることもなく、わざわざ本に埋もれた不健康な過ごし方を望む者などそうはいないということだ。セブルスは、それを承知の上で静かな時間を求め、この場所にきた。
「―――スネイプ。あなたも勉強?」
「……ああ」
 セブルスの会いたくなかった人物―――リリー・エヴァンズ―――は、友好的に手など振って彼に歩み寄る。寮に戻ろうかと思案していた彼は、なおも片足は廊下に置いたままで頷いた。
「―――魔法薬学ね? よければ隣どうぞ。わたしも丁度、昨日の実験のレポートを書いていたところなの」
 リリーはセブルスが手にしている教科書を見て言うと、先程まで自分が座っていた席の隣の椅子を引いた。
 セブルスはしばし躊躇したが、小さく溜め息をついて、その席の隣に腰を下ろす。
「天邪鬼ねぇ」
 苦笑するリリーの顔を見ようとしないまま、セブルスは教科書を開いた。―――これでも妥協した方だ、と息を漏らす。







「セブルスは魔法薬学も得意なのね」
 すぐそばでした声に、驚いて目を向ける。リリーは感心したようにセブルスの教科書を覗き込んでいた。
「―――ッ、何……」
「すごい。とても分かりやすいわ、この方法」
 ぎこちなく身を引くセブルスにはお構い無しに、リリーはしきりと感嘆の声を上げる。何故かとても気恥ずかしい。
「エヴァンズッ、」
「―――なに?」
 とっさに名を呼んだものの、言うことなど特にない。セブルスは言葉に詰まりながら彼女を押し返した。
「……ああ、もう。本当に放っておけないわね、セブルスは」
 突然肩をすくめながら苦笑したリリーに、セブルスは思わずしかめっ面をつくる。
「いちいち反応がおもしろいんだもの。ポッターたちがあなたにちょっかいを出すのはこのせいね」
「余計な御世話だ」
「知ってるわ」
 微笑で言われる。どうにも調子が狂うな、とセブルスは眉根を寄せた。
「穢れた血、と言われてもね、やっぱりわたしはあなたを放っておけないの」
「……偽善だな」
「そうね。だけどあなたがポッターたちにつっかかられているのを見て知らないフリをするよりは、ましでしょう」
 ひどく穏やかに言って、リリーは目を細めて見せた。
 セブルスは驚いたように彼女の顔を見つめる。どうして、と呟きかけたが、それが言葉になることはなかった。
「……穢れた血、なんて、本当は思ってない」
 代わりに口にのせた言葉は、消え入りそうなほど小さい。それでもリリーの耳にはしっかりと届いたようで、彼女はうん、と笑顔になる。
 それはとてもやさしいもので。セブルスは束の間、心が癒されるような感覚を覚えた。





―――了.



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