□幸せの青い鳥
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 本を膝の上にのせたセブルスは、木に寄りかかってまどろんでいた。久々の陽気で吹く風もあたたかい。
 草や木の葉の擦れるおとしかないそこに、誰かが走ってくるらしい足音がした。小枝が踏まれて微かな乾いた音がする。それさえもセブルスには心地好い子守唄だった。

「―――あッ、」

 短い悲鳴のあとに、本か何かが散らばり落ちる音が続く。まどろみを一気に吹き飛ばされたセブルスは、彼が寄りかかった大木越しにそちらを振り返った。
 くすんだ茶色い髪の少年が、ひどく緩慢な仕草で立ち上がっているところだった。

 セブルスは彼を知っていた。―――グリフィンドール寮で同じ学年の、名前をピーター・ペテグリューと云う。セブルスの天敵であるポッターやブラックの後ろについて歩いているやつ。
 セブルスのペテグリューに対しての知識はそれ以上でもそれ以下でもない程度のものしかなかった。
 ペテグリューはセブルスの姿を認めると、びくっと体を震わせてその場に立ちすくんだ。いつもの仕返をされるとでも思ったのかもしれない。もとよりセブルスには、彼をどうにかしようという気は全くなかった。


「あ……あの、何してるの………?」


 おどおどした口調で訊いてきたペテグリューに、セブルスは一瞥をくれてやる。ペテグリューは睨まれたと勘違いして小さく悲鳴をあげたが、セブルスは実は感心していだ。こいつ、ポッターやブラックがいなくてもしゃべれるのか、と。
 感心はしたが、とりあってやる気にもなれず、セブルスは彼を無視して再び本に目をおとした。







 何してるのと訊いたはいいが、スネイプの膝の上に乗っているものを見ればそれは明白だった。そのせいか、ピーターはすっかりスネイプに無視されてしまい、所在なくそこに立ち尽くした。こんなところに来なければよかった、と思い、その理由を思い出してピーターは空を仰いだ。
「ぼくは鳥、をね、追い掛けてきたんだ」
 誰に言うともなく言うと、ピーターはスネイプが寄りかかる木のその反対側にもたれた。スネイプはやはり何も言わないでいる。
「さっき偶然見掛けて、青い鳥だから、珍しくて」
 木の反対側にいるスネイプが呪いをかけてくるような気配はない。ピーターは少し安堵して続けた。
「……青い鳥?」
 いぶかるような口調でスネイプが訊き返してくる。ピーターは驚きながら頷いた。
「う、うん。――あ、ほら、あそこ」
 ピーターは枝の上でさえずっている鳥を指さした。スネイプがそれを見上げたようだ。
 そこで、彼は不安になった。今朝、青いインクと鳥籠を持ったジェームズとシリウスがこそこそと何かやっていたことを思い出したのだ。
 スネイプはそのことに気が付いているのかもしれない。
 あれは『青い鳥』ではなくて『青くされた鳥』なのだと。

「……あの鳥……」

 スネイプがぽつりと言う。ああ、やはり。ピーターは慌てて口を開いた。
「し……、幸せの青い鳥かもね……?」
 そしてすぐに後悔した。そんなことを言ったところでスネイプが信じるはずもなく、攻撃はされないとしても呆れられるか無視されることは明白だった。
 逃げ出そうかとも思ったがあの美しい青い鳥が見えなくなるのも惜しい気がして、ピーターは深い溜め息をついた。
「…………そうかもな」
 そんなピーターにスネイプが口を開く。
 それが何に対しての答えであるのか丸々三十秒かかって気付くと、ピーターは笑顔になった。


 それからしばらくピーターは木の下で鳥を見ていたけれど、空の青に溶けこんで行ってしまったので、スネイプにさよならを行って寮に戻った。
 あの鳥は、ほんとうは青くはないのだけれど、僕にとっては本物の『青い鳥』だったのだ、と。
 ピーターはスネイプとの背中あわせの奇妙な時間を思って微笑んだ。





―――Fin.



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