□Paramnesia
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―――さあハリー、ハリー。早くお眠り。起きたら風邪なんて吹っ飛んでる。一緒に散歩に行こう。
ねぇむれ、ねむれ。安らかに。

 ハ、と目を開けると、心配そうな表情をしたシリウスがいた。
「おはようハリー」
「あれ、僕どうして……」
「さっきロンが慌てて私とリーマスのところに来たんだ。君が倒れた、って」
 シリウスはハリーの額の濡れタオルを交換しながら肩をすくめる。ハリーは、冷たさに僅か体を震わせた。
「あー……何だか部屋がぐるぐるする……」
「体調が悪かったならどうして休まなかったんだ」
「悪くなんかなかったんだよ。少し体が重かっただけだった」
 ハリーが顔をしかめていうと、シリウスも負けないくらいしかめっ面になる。
「それは十分体調が悪いって言うんだ」
 怒ってるのかな。ハリーはシリウスを上目に見ながら布団を口元まで引き上げた。
「今日はとにかく寝ていなさい、ハリー。きっと明日にはよくなっているから」
 苦笑した名付け親はハリーの頭をくしゃくしゃにすると、ベッドのすぐ隣に置いた椅子に腰かけ直した。
「せっかく、こんなにいい天気なのに」
 居座るつもりらしいシリウスを尻目に、小さな溜め息をつく。屋敷のカーテンやシーツ類を洗濯したかった、などと主婦のようなことを考えていると、シリウスは気にするな、と口元に笑みをたたえた。
「洗濯はリーマスがしておくと言っていた」
 ハリーは心中を見透かしたようなシリウスの言葉に、どきりとしてハンサムな顔を見上げる。シリウスはニヤリと口の端を持ち上げてみせた。
「ハリーの考えていることはみんなお見通しだよ」
「どうして?」
「私が君の名付け親だからさ」
 シリウスの根拠はないけれど、誇りに満ちた物言いにハリーは小さく吹き出した。胸にいっぱいの何かあたたかいものが込み上げてきて、あぁ、僕はシリウスといると幸せな気持ちになれるんだ。胸中で呟き、思ったままを今度は実際に口に出して呟いた。
 シリウスは泣きそうな顔をしてから、ハリーの手を潰れるほど握り締める。ハリーは痛みを我慢して、黙っていた。
「明日、散歩に行こうか」
 脈絡のない言葉。シリウスはすっかり自分の中で自己簡潔してしまっている。
「散歩、いきなりだね」
「外の空気を吸うと、元気が溢れてくる。だから散歩」
「じゃあシリウスはまた黒犬の姿にならないとね」
 ハリーが言うと、シリウスはチッチ、と指を立てる。
「リーマスの髪の毛を一本拝借して、ポリジュース薬を作ろう」
「材料は?」
「学生のころ、君の父さんとよく作ってたんだ。その余りがまだあるよ」
 腐ってないといいけど。シリウスは自分で言って爽やかに笑う。その笑顔は、時折彼が見せる陰鬱な表情とはあまりに対称的で、まるで別人のよう。
「明日がたのしみ!」
「じゃあ早くお休み。私もここにいるから」
 ハリーは小さく頷いて、ゆっくり目を閉じた。そのままふと、口を開く。
「前にもこんなことあった?」
「うん? どうだったかな」
「それじゃあいいよ。僕の思い違いみたい」
 言ったが優しく頭を撫でつけられる感覚に、ハリーはやはり懐かしさを感じずにはいられなかった。





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