□あなたの幸せだけを祈らせて
2ページ/3ページ







†・†・†・



 年中を通して緑の絶えないこの中庭は、昔はきちんと四季があった。本来常緑ではない木々たちはある生徒たちの仕業で常緑になってしまったらしい。それからもう3、4年が経つが、誰一人として元に戻そうとする教授はいない。それは、美しい緑が以前よりこの庭を生き生きと見せ、生徒たちを癒す効果を持っているからという校長の一言に起因するのだそうだ。
 校長のその計らいはとても素敵だと、ナルシッサは中庭に来るたびに思う。確かに生命力の溢れたこの空間は塞いだ気持ちも優しく慰め、元気を与えてくれた。はじめは悪戯好きな生徒たちの暇潰しでこうなったのだけれど、それが他の人の役に立っているのだから、面白い。
 ナルシッサはベンチに腰掛けて手紙の差出人を待つことにした。胸一杯に吸った空気が美味しい。心まで満たされるような爽快感に思わず歌をくちずさみ、ふっと空を見上げた。―――同時に落ちる影。
 彼女は自分の顔に影を落とした人物の顔を逆さまに見て、言葉を失ってしまった。
「ずいぶんとご機嫌だな」
「シリウス!」
 慌てて反らした背をしゃんとし、立ち上がると、彼は苦笑とも呆れともつかない顔でナルシッサに言った。たちまち恥ずかしさで顔がほてる。
「いつからみていたの」
「ナルシッサがここに来たときから。そっちのベンチに座ってたんだ」
 シリウスは自分の寮に近い方にあるベンチを見遣って肩をすくめてみせた。ナルシッサが座っていたベンチからはそこは木の陰になっていて見えない。もちろん、グリフィンドール寮側からもそれは同様だ。ナルシッサは目を丸くして背の高い従兄弟を見上げた。
「どうしてわたしだとわかったの?」
「声を聞けば分かるよ。歌ってただろう」
 シリウスはのんびり言って彼女をベンチに座らせ、自身もとなりに腰かけた。
「……誕生日おめでとう」
「うん。ありがとう」
「毎年悪いな。……その、呼び出したりとかして、」
「いいえ。わたし、あなたからの手紙が来るのを毎年待ってるの。とても嬉しいわ」
 にっこりしてナルシッサが言うと、シリウスは少し照れてわざとらしく口笛などを吹き出す。それから、ローブの中を探って何か小さい包みを取り出した。
 ぴんと張った口笛の音が、ハッピーバースディ・トゥー・ユー、と旋律を結ぶ。
 シリウスがぶっきらぼうに差し出したのは小さな箱で、可愛らしいピンク色のリボンがついていた。
「開けてもいい?」
「……あんまり期待すんな」
 ナルシッサはそうっと箱を受け取り、落としてしまわないように蓋を開けた。
「――わぁ……っ、」
 思わず歓声が溢れる。小さな箱の中に入っていたのは、一対のイヤリングだった。派手すぎず、シンプルすぎない銀の縁取りに、ナルシッサの頬と同じ色の淡く光る宝石。
「かわいい……っ!」
「こういうの選ぶの、慣れてないから、どういうのがいいのか分からなかったんだけど」
「うれしい。本当にかわいい、ああ、シリウスありがとう」
 子供の頃のように抱きついて、頬に口付ける、シリウスはナルシッサの耳にイヤリングをつけてやった。





.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ