士道

□嘘つきの約束
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―――ほんとうは、ひとつだけウソがありました。


†・†嘘つきの約束†・†


 惣次郎が試衛館に住み込みで下働きをするようになり、十日ほどが経った。門下ではないけれど頻繁に道場に通っている歳三は、彼の働きをそれとなく観察していた。
 いつもにこにこしながらも、あぶなっかしい手付き。先程などは、桶を引っくり返して床を水浸しにしていた。―――それでも彼は、笑みを絶やさない。
 それが歳三には、不愉快に思えてならなかった。

「ソージ」
「惣次郎です。……何か御用ですか、歳三さん」
 生意気な声だな、などと考えながら、歳三は惣次郎をひょいと抱えあげ、そのまま歩き出した。予期せぬことに、惣次郎は驚いて手足をばたつかせる。
「な……なんなんですかっ! 下ろしてくださいっ」
「バァーカ、取って食いやしねえって。暴れんな!」
 惣次郎は困惑した表情をしたものの、抵抗をやめようとはしない。二人で半ば取っ組みあいの喧嘩をしながら道場を出たところで、勇が騒ぎ声を聞き付けてやってきた。珍妙な体勢で喧嘩をしている二人に目を丸くし、口を開く。
「トシ、何やってるんだ?」
「あぁ、勝ちゃん、ちょっとこいつ借りてくぜ」
「借りてくって、……おいトシ!」
 歳三の意図が掴めない勇は慌てて親友を引き止めるが、歳三は構わず道場をあとにした。





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