□此れが我が家の戦事情
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「家康もずいぶんと慎重になりやしたねェ」
 上田の地図を囲う信繁と海野に、十蔵が廊下から声をかけた。信繁が僅かに笑んで彼を見上げると、臣下はニヤリとして隣に腰を下ろす。
「猿からの報せによると、今こちらに向かっているのは秀忠率いる徳川本軍らしいですぜ」
「数は?」
「三万ちょい、くらいですねィ」
 ふむ、と思案顔になり信繁は再び地図に目を落とした。海野は何処か愉しげな主君の様子に思わず苦笑する。
「15年前、あの狸めとやり合った時は、若の初陣でしたね」
「ああ。お前もな」
「あの時は肌も見えぬほど甲冑に身を固めていらっしゃったのに、こたびはまた極端に軽装ですね」
 海野は扇を閉じたり開いたりしながら、鎖帷子の上に陣羽織のみを纏った幸村に言った。信繁は地図から目を離さずに笑う。
「あれは六が用意したものだったろう。まったく、私の言うことなどまるで聞かぬのだからな、お前は」
「滅相もない。あなた様に怪我でもされたら、と思った上のこと。私の全ては信繁様の御為にあるのですから」
「うまいことを。……そう言いながら六、お前こそこれから戦をするとは思えぬ格好だが」
 信繁は顔を上げて海野を見返すと、小さく呆れたように溜め息をついた。
「それは私ばかりではなく、筧や小助らもですよ」
 話を振ると、十蔵は嬉しそうに海野に笑顔を見せて答えた。
「家臣は主君に似ますからねィ」
「……そういうことです」
 信繁は再び溜め息をつき、はにかんだような苦笑を見せた。





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