□そうだ、散歩へ行こう。
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*4700打/藤村さまへ*












「おはようございます幸村さま」
 春のうららかな日差しを背に受け、海野は幸村の寝室の障子を押し開けた。
「良い天気でございますよ。聞こえますか、鶯が鳴き始めたようで」
 穏やかな海野の声に寝惚け眼で応えながら、幸村はゆるく頭を振った。
 海野は覚醒に時間のかかる主君の姿に思わず笑みを漏らし、肩に上着を掛けてやる。障子の外を見つめると、ふわりと柔い風が前髪をさらった。長方形に切りとられた庭の上では、目に優しい、夏のそれとはまた違った空の色が若葉を抱いている。
「………………六、」
「は。何でございましょう、若」
「うん。………団子、食べたいな」
 幸村は肩越しに海野を振り返って 小首を傾げた。従者は苦笑して、それでは小助に、と頷いて見せた。
「いや六。食べに行こう」
「……は、今からですか?」




そうだ、散歩へ行こう。




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